アイオワ型戦艦
【Iowa】



アイオワ(Iowa)型は第二次世界大戦から湾岸戦争まで使用された、アメリカ海軍最大の戦艦である。「BB-61 アイオワ」「BB-62 ニュージャージー」「BB-63 ミズーリ」「BB-64 ウィスコンシン」がある。

アイオワ級は当時世界各国の主力艦の速力が増大する傾向にあることから従来のサウス・ダコタ級の27ktから6kt速い33ktの高速戦艦として計画された。主砲は50口径40.6cm三連装砲塔3基が搭載され、アメリカ海軍戦艦中最速の33ktの速度と共に、最強の打撃力を持つ戦艦となった。
艦幅はパナマ運河通行のため制限されるのに対して、全長は無制限だったために、高速化のため、艦幅に対して極端に長い艦体となった。そのために悪天候時の復元力に劣っていたともされる。

1939年に4隻の建造がアメリカ合衆国議会から承認され、40年から41年の間に全てが起工された。1940年にドイツ第三帝国への備えとしてさらに2隻の建造が決定されたが、これは終戦とともに建造中止となった。
第二次世界大戦中は、空母機動部隊の護衛の他、高速を活かした地上施設への艦砲射撃なども行った。三番艦「ミズーリ」艦上で、日本の降伏調印が行われたことも有名である。
戦後は現役艦ではあったが主に練習艦として使われ、練習艦に大型戦艦4隻は維持費・運用費もかかりすぎ豪華すぎるということで、「アイオワ」「ニュージャージー」「ウィスコンシン」は予備役となり、「ミズーリ」のみが現役となった。

1950年の朝鮮戦争勃発に伴い、全艦が現役に復帰、北朝鮮軍・中国軍に対して艦砲射撃を行った。しかし朝鮮戦争休戦後間もなく、全艦が予備役になり再びモスボール状態で待機することとなった。その後もミサイル戦艦案・揚陸戦戦艦案・戦略ミサイル戦艦案など多数の構想が練られたがいずれも費用対効果が低いと判断され実現には至らなかった。

1968年、ベトナム戦争勃発に伴い再び「ニュージャージー」が現役に復帰、ヘリコプター発着所・電子機器更新等の改装が行われたうえで艦砲射撃に従事した。
当時まだ信頼性が低く、また高価なミサイルを使用しての航空作戦に対して、この艦砲射撃はその攻撃力・信頼性・持続性・全天候性など様々な面で大きな評価を受け、戦艦の主砲の強大さを世に示すこととなった。
しかし人件費・維持費など費用の問題で、半年の任務を終え一度本土へ帰還した際に、三度予備役に編入された。

さらに時は過ぎ1981年、「強いアメリカ」を提唱するロナルド・レーガン政権の「600隻艦隊構想」によって水上打撃部隊の中核として全艦の現役復帰及び近代改修が決定、その第一次改装として電子機器の更新・CIWSの搭載・トマホーク、ハープーン両ミサイルの搭載、この4点を主として行われたが、予算の関係上艦隊戦に不可欠なNTDS(海軍戦術データ・システム)は搭載されず、艦隊旗艦としての能力はない。改装費用は1番改装艦である「ニュージャージー」で3億3300万ドル〜最終番艦「ウェスコンシン」で5億300万ドルと巨額であった。
改装終了後、慣熟訓練が終了すると同時に「ニュージャージー」がベイルートに派遣されゲリラに対して艦砲射撃を実施、約5ヶ月後に撤退した。
また2次改装として、3番砲塔を撤去し艦尾までの飛行甲板を設け、SH-60B LAMPS3ヘリやAV-8ハリヤーSTOVL攻撃機を搭載する航空戦艦案があったが、ソ連の崩壊・冷戦の終結と共にその必要性が薄れたために実施されず、89年4月には「アイオワ」が2番砲塔爆発事故を起こし、89年12月退役、「ニュージャージー」が91年9月に退役した。

1991年、湾岸戦争勃発に伴って現役に残っていた「ミズーリ」と「ウィスコンシン」が、艦砲射撃による陽動作戦とトマホークによる施設破壊が行われ、特に艦砲射撃は絶大な威力を発揮した。ここでもベトナム戦争と同じく、攻撃力・信頼性・持続性・全天候性がものをいったわけである。
結果的にアイオワ級戦艦は、アメリカの参加する大きな戦争のたびに現役に復帰し、その都度巨砲の威力を存分に発揮してきたことになる。

しかし、一度戦争が起こればその巨砲の威力と、巨艦が味方兵士に与える士気は絶大なものではあるが、10年に一度起こるかどうか分からない大規模な戦争のために、その巨艦を維持する予算も莫大なため、「ウィスコンシン」は同年の間に、「ミズーリ」は翌年またも予備役に編入された。さらに1995年、アメリカ海軍はアイオワ級戦艦の除籍を決定し、「ミズーリ」を真珠湾にモニュメントとして保存、「ニュージャージー」はニュージャージー州で、「ウィスコンシン」は東海岸のノーフォーク軍港で記念艦となり、「アイオワ」はB級退役艦となってカリフォルニア州スーサン湾に係留されているが、現在サンフランシスコが本艦の記念艦の誘致を行っており、最終的には4隻全艦記念艦になる可能性もある。


性能諸元

艦名 アイオワ (竣工時)
全長 270.43m
全幅 32.97m
喫水 11.51m
基準排水量 43,944t
満載排水量 57,216t
機関1 バブコックス&ウィルコックス罐・重油焚8基
機関2 ジェネラル・エレクトリック ギヤードタービン4基
出力 4軸212,000HP
最大速度 33kt
航続距離 15900海里/17kn
主砲 モデル1936 40.6cm50口径砲 Mk47 三連装砲塔3基 合計9門
副砲 Mk12 127mm38口径砲 Mk28 連装砲8基 合計16門
対空兵装1 ボフォース40mm4連装機関砲15基
対空兵装2 20mm単装機関砲20基
艦載機 水上偵察機3機
乗員 平時1921名 戦時2700名
造船所 ニューヨーク海軍工廠(BB-63・64はフィラデルフィア海軍工廠)
起工 1940年6月27日
進水 1942年8月27日
竣工 1943年2月22日


艦名 ニュージャージー (第二次改装後)
全長 270.53m
全幅 32.95m
喫水 11.58m
基準排水量 ????
満載排水量 ????
機関1 バブコックス&ウィルコックス罐・重油焚8基
機関2 ウエスティングハウス ギヤードタービン4基
出力 4軸212,000HP
最大速度 33kt
航続距離 15900海里/17kn
主砲 モデル1936 40.6cm50口径砲 Mk47 3連装砲塔3基 合計9門
副砲 Mk12 127mm38口径砲 Mk28 連装砲6基 合計12門
対空兵装 ボフォース40mm4連装機関砲?基
対空兵装 Mk15 ファランクス4基
対艦ミサイル Mk141 RGM-84ハープーン4連装発射機4基 合計16発
対地ミサイル Mk143 BGM-109トマホーク4連装発射機8基 合計32発
艦載機 なし(ただしヘリ甲板あり)
乗員 1058名 海兵隊員40名
造船所 ニューヨーク海軍工廠
起工 1940年9月16日
進水 1942年12月7日
竣工 1943年5月23日

同型艦

●BB-61 アイオワ

1番艦。

●BB-62 ニュージャージー

2番艦。1940年9月16日起工、1942年12月7日進水、1943年5月23日竣工。

●BB-63 ミズーリ

3番艦。1941年1月6日起工、1944年1月29日進水、1943年6月11日竣工。

●BB-64 ウィスコンシン

4番艦。1941年1月25日起工、1943年12月7日進水、1944年4月16日竣工。

●イリノイ

5番艦。1942年12月6日起工、1945年1月15日中断、1945年8月12日中止。

●ケンタッキー

6番艦。1942年12月6日起工、1945年2月17日中止、1948年8月17日再開、1950年1月20日中止。
ウィスコンシンが衝突事故を起こした際に、艦首を提供した。

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