広開土大王級 駆逐艦
【クァンゲトデワン Kwanggaetdewan / Kwanggaeto the Great 】

韓国海軍の国産艦で、1998年〜2000年に3隻竣工した新鋭駆逐艦である。
韓国軍は、朝鮮戦争以後、現在も敵対している(正確には停戦状態であるが韓国は停戦条約を調印していない為戦争状態のまま)朝鮮民主主義人民共和国(以後 北朝鮮)と38度線を境に大兵力を貼り付けざる追い得ない状況であり、その為韓国の国防予算の大半を陸軍、次に空軍に費やしているのが現状であった。その為韓国海軍は90年代までは、主力駆逐艦はアメリカ海軍が第二次世界大戦時に建造し、近代改装(FRAM1改装)を行ったアレー.M .サムナー級・ギアリング級など旧式艦と、自国で建造した小型フリゲート艦30隻程度しか戦闘艦を保有しておらず、残りは小型哨戒艦艇のみという沿岸警備を主任務とする沿岸防衛用の海軍と,敵前上陸を行う海兵隊と揚陸艦が数十隻がある程度であった。その為韓国海軍の艦艇は北朝鮮海軍に対抗することを基本構想とし、北朝鮮が航空攻撃を掛けてくる可能性は低く、艦載対空ミサイルは不要であり、北朝鮮の魚雷艇等による人海戦術に対抗する為砲装備が重視されていた。

しかし80年代に入ると韓国経済は大幅に成長、北朝鮮との経済格差は大幅に開くようになると、韓国海軍も沿岸防衛海軍(ブラウンウォーターネイビー)ではなく、世界に通用する海洋海軍(ブルーウォーターネイビー)への脱却を図る為、ドイツより潜水艦を購入・ライセンス建造、ヘリ揚陸艦の建造、そして大型の国産水上戦闘艦などを計画した、その大型水上戦闘艦の第1弾が「クァンゲトデワン」級駆逐艦(DDH)である。
本級は1980年代にアメリカから導入したアレー、M、サムナー級・ギアリング級駆逐艦の後継として計画。計画段階では「KDX-1」(KDX:韓国次期駆逐艦)と呼ばれており(一部ではDW4000型フリゲートと言われていた)、大宇重工業が89年ごろより研究をはじめ、90年代初頭には韓国海軍の計画し始めたが、韓国海軍初の国産駆逐艦という事もあり、要求性能決定が遅れたため、計画は大幅に遅れ、起工は95年になってしまった。しかしその後の建造は順調で、98年には1番艦「クァンゲトデワン」が大宇造船所オクポ工場で竣工、その為造船所の名を取って「オクポ」級と呼ばれている時期もあった。また本級は韓国国産艦として初めて満載排水量3,000tを超え、防空ミサイルを装備した韓国海軍にとっては画期的な駆逐艦である。ただし、船体以外は武器・レーダー・システムなどはほとんどが海外からの輸入品で構成せざる終えなかった。本級は、計画当初は20隻以上の建造を予定していたが、途中で計画が縮小、10隻程度の計画となった。しかしエリアディフェンス用のスタンダードSM-2を搭載するより強力な「KDX-2」の建造に移行した為、3隻で建造を終了してしまった。

外見は、後部にヘリ甲板・格納庫を持ち、格納庫上の電子機材を機関の高熱の排気から守る為、煙突をY字に配置てある。また上部構造に傾斜をつけてあり、韓国海軍では初めて、ステルス性を意識している。しかし艦橋部側面などと、ヘリ格納庫側面の傾斜角度が違うほか、一部には垂直に近い箇所も多く、本当にステルス性を考慮した設計なのか疑問な点も多い。また日本の「たかなみ」型とほぼ同じ武装を持ちながら満載排水量では2,000t以上も小型の船体にコンパクトにまとめられている。(丁度満載の「はつゆき」型と「あさぎり」型の間ぐらいの大きさ)しかしその反面、主船体のスペースが足りない部分は上部構造物補っており、上部構造が艦の大きさに比べ極めて大型で、逆に喫水線が同規模の艦に比べ浅いなど、海上自衛隊の艦艇を見慣れた目からすると、トップヘビーな感は拭いきれない。
また小規模ながらラティスマストを採用してる点も、ステルス性ではマイナスではないかと思われる。

「クァンゲトデワン」級の武装は、主砲は世界的ベストセラー砲であるOTOブレダ社の54口径127mm単装砲(1門)を初採用している。この砲は日本の「こんごう」型イージスミサイル護衛艦(DDG)「たかなみ」型汎用護衛艦(DD)に搭載されている砲と同じで、対水上砲撃だけでなく対空砲撃も可能で、発射速度毎分40発を誇る高性能砲である。対空ミサイルはMK-48mod2 VLS発射機(16セル)に垂直発射型のシースパロー(RIM-7P)を装備している。このMk-48は日本の「むらさめ」型よりも新型を搭載しており、能力は本級の方が上(韓国海軍士官談)と言われ、イルミネーターの数も「むらさめ」型と同じ2基装備していることから、それ相応の複数同時処理能力があるものと思われる。しかし「むらさめ」型はESSMへの換装作業中で、最終的な防空能力は現在の所「むらさめ」型よりも数段劣ったものとなっている。

対艦ミサイルは、韓国の従来艦でも採用されているハープーン対艦ミサイル(RGM-84D)4連装発射機2基を装備、対潜装備は3連短魚雷発射管を両舷に1基づつ計2基装備している。また近接防衛用としてオランダが開発した30mmCIWS「ゴールキーパー」を艦橋上に1基、ヘリ格納庫上に1基という見通しのいい理想的な位置に装備されている。
艦載機は、イギリス製スーパーリンクスMK99対潜ヘリを1機装備し最大2機まで搭載可能であるが、夜間着艦装置は竣工当初から搭載しておらず、夜間のヘリの離艦作業は不可能である。その為夜間の戦闘行動を行う場合は陸上基地からしか運用できない。夜間着艦装置は「KDX-2」後の「イ・スンシン」級ミサイル駆逐艦で、初めて導入されおり、その為後日装備した可能性もあるが、未確認である。

機関はアメリカGM社のLM2500ガスタービンエンジン2基とMTUディーゼルエンジン2基によるCODOG方式を採用している。
また、戦闘システムは、イギリスのブリティッシュ・エアロスペース社のSEMA SSCS Mk-7戦闘システムを中心とし、火器管制装置としてオランダ・独逸・スイスなど、どれも定評のあるシステムを採用し、それまでの韓国艦より格段に進歩している。しかし多くの国の火器管制システムを導入した為、個々システムを1つの戦闘システムに構築するのは、相当大変だったと思われる。
また乗員数は、「世界の艦船」によると170人であり、乗員数だけ見ると「たかなみ」型とほぼ同規模の自動化を行ってる様に見える。しかし海外の資料を見ると286名となっておりもしこの数字が正しいのなら、小さい船体に多くの乗員を乗せる為、「たかなみ」型よりも数段居住スペースが少ない事は確実で、居住性・には不明点も多い。

本級は、竣工当初大韓民国海軍最大の戦闘艦であり、初の国産ヘリ搭載搭載駆逐艦(DDH)であった為、一時期は韓国海軍の顔として自国の50周年国際観艦式の他、リムパック演習や我が国にも数回来日するなど活発な活動を行っている。しかし海上自衛隊との合同救難訓練の際に、機動性があまりにも悪かった為、訓練に支障が出たとも言われるなど、問題点も指摘されており、カタログスペック通りの性能があるかどうか疑問な点も多い。

現在の所、韓国海軍は艦艇数・総トン数もたいしたことはなく、システム・武装も大半が海外からの輸入に頼っている。しかし本級のような新型艦を建造し始め、現在は「イ・スンシン」級ミサイル駆逐艦を建造・配備中で、今後韓国海軍はイージス艦の取得、AIP潜水艦の採用、原子力潜水艦の建造、1,3000t級強襲揚陸艦や空母の建造などを新計画が目地通しで、今後の韓国海軍の動向は注目されることになるだろう。
ちなみに、本級ネームシップの名の由来は、日本とも戦った高句麗第19代王の名から取っており、漢字表記は「広開土大王」となる。残りの2隻にも、高句麗の有名な武将の名から頂いている。

性能諸元

艦名 クァンゲトデワン「広開土大王」
全長 135.4m
全幅 14.2m
喫水 4.2m
満載排水量 3855t
機関 LM-2500(2基)MTUディーゼルエンジン(2基) 2軸
出力 58200HP
最大速度 30kt
航続距離 18ktsで4500nm
主砲 OTO 54口径127mm単装砲 1基
対空兵装1 Mk-48mod2 シースパロー短SAM(VSL)発射機 (16セル)
対空兵装2 30mm高性能機関砲(CIWS:ゴールキーパー) 2基
対潜兵装 3連短魚雷発射機 2基
対艦兵装 ハープーンSSM4連装発射機 2基
射撃管制レーダー(砲・シースパロー共用) STR 180 2基
対空レーダー AN/SPS-49(V)
水上レーダー MW08
航海用レーダー SPS-95K
対魚雷戦用 SLQ-25 Nixie
ECM ARGOSystemsAR700
ESM ARGOSystemsAPEC2
IFF AN/UPX-27K
電子戦 Matra Defense Dagaie Mk2チャフ発射機 4基
データーリンク リンク11
ソナー DSOS-21B
対潜ヘリ スーパーリンクス 1機
乗員 170名(資料によっては286名)
造船所 大宇造船所オクポ工場
竣工 1998年7月24日

同型艦

●DDH-971「クァンテトデワン」(Kwanggaetdewan)

1番艦
1996年10月28日起工
1998年7月24日竣工
造船所:大宇造船所オクポ工場

●DDH-972「エウルジムンドク」(Euljimundok)

2番艦 1997年10月16日起工
1999年6月竣工
造船所:大宇造船所オクポ工場

●DDH-973「ヤンマンチュン」(Yangmanchun)

3番艦
1998年9月30日起工
2000年6月竣工
造船所:大宇造船所オクポ工場

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