たかつき型 護衛艦
本型は昭和36年度からスタートした第2次防衛力整備計画に基づいて4隻建造された海上自衛隊第二世代護衛艦である。
当時の海上自衛隊は、草創期の米艦艇供与時期を経て、第1次防で初の国産護衛艦を建造するなど徐々にではあるが、技術レベル・造船技術も上がってきており、第2次防衛力整備計画では、海上自衛隊が草創期に米軍から供与された艦艇の多くが退役次期を迎え、更新用に高い性能を持った国産新造艦を建造することになった。また第2次防からは米軍の最新鋭の兵装を供与してもらいう事になっており、当時としては最新鋭の装備である新型5インチ砲・対潜ロケット魚雷・大出力低周波ソナー・無人対潜ヘリなど最新武装を搭載する対空・対潜・対艦攻撃任務など幅広い任務を行う、基準排水量3000tの多用途護衛艦(DDA:
All purpose Destroyer )4隻を計画した。これが「たかつき」型護衛艦である。
本型は当初より多目的護衛艦として建造されているが、ネームシップの艦番号164と言う数字は、1960年に竣工した「あきづき」型対空護衛艦の(DD-161)ミサイル護衛艦「あまつかぜ」型(DDG-163)などの対空護衛艦(もしくはミサイル護衛艦)の番号を引き継いでいることから、多目的な任務を行う一方で搭載している5インチ砲において、艦隊の防空任務を行う対空護衛艦としての役割を持っている。
「たかつき」型の外見的特長は、当時の主流機関である蒸気タービンを採用し、海上自衛隊の護衛艦として初めてマック構造を採用した事である。これは当時米海軍で就役していた「ブロンスタイン」級護衛駆逐艦(DE:1975年にフリゲートに艦種変更)で初採用され、以後レイヒ級ミサイルフリゲート(後のミサイル巡洋艦)「ノックス」級護衛駆逐艦(後のフリゲート艦)など当時の米海軍蒸気タービン艦の流行となった構造で、海上自衛隊でも以後「はるな」型・「しらね」型両ヘリ搭載護衛艦(DDH)・「たちかぜ」型ミサイル護衛艦(DDG)にも採用されているなど、一時期の海上自衛隊大型護衛艦の象徴とも言える構造である。
マック(Mack)構造とはMast(マスト)+Stack(煙突)を合わせた造語で、マストと煙突を一緒にすることにより艦上のスペースを大きく取ることがで、しかもマストとしての剛性をまし、重量の大きいレーダーの設置に都合がよく、電子機材に悪影響を与える振動を極力少なくできるなど、利点が多い構造である。しかし現在の主流機関であるガスタービン推進では、マック上の電子機材をガスタービンの高排気の影響を受けやすい為、この手法は取られていない。「たかつき」型では上部構造物を2つに分け、その上部構造物に1つずつマックを設置し、電子機器は余裕を持って設置できるようになっている。
また船体内部は所要の艦内容積を確保する為、「あまつかぜ」(DDG-163)と同じ2層の全通甲板を有する遮浪甲型船体を採用、艦首は悪天候時の凌浪性を確保する為、船体の乾舷は比較的大きくされ、艦首には大きなシーアが付けられている。また艦首底部にソナーを設けた為このドームを錨や錨鎖で傷つけないように艦首前端部を著しく前方に突き出し、艦首材が大きく前方に傾斜した形状とされた。
艦内の居住性も、従来の護衛艦に比べかなり余裕を持って設計されている為、司令部設備を当初より搭載、居住スペースも増大、全艦冷暖房方式を採用、特に居住区関係は2段冷房方式として快適さの向上がはかられ、また雑音と振動の減少にも留意されるなど、当時の従来艦に比べ大幅に居住性能が改善されている。
「たかつき」型の武装は、砲は当時米海軍の最新鋭装備である54口径5インチ(12.7mm)単装砲MK-42を初めて採用し、前部に1門後部に1門計2門装備している。このMK-42は米海軍では「チャールズ・F・アダムス」級ミサイル駆逐艦・「ノックス」級フリゲートをはじめ現在も世界各国で使用され、発射速度も40発/分を誇る高性能砲(実際には故障が多発するので30〜35/分程度に抑えられている)で、以後国産化され73式となる。当初「たかつき」型の対空・対艦兵装はこの砲だけだが、当時このクラスの艦艇に装備できる対空ミサイルは高価なターターしかなく、127mm砲2門は本型竣工時には強力な分類に入る。またMK-42は海上自衛隊でも「たかつき」以降の大型護衛艦に多数搭載され、1980年代後半に建造された「はたかぜ」型ミサイル護衛艦まで搭載されることになる。
対潜兵装は、「やまぎり」型護衛艦(DDK)で初採用となった遠距離攻撃用のアスロックSUM8連装発射機を艦橋前に1基装備し、また中距離用にボフォース4連装対潜ロケット発射機(無誘導)を艦首に1基装備、さらには短距離目標用に3連短魚雷発射管を両舷に1基づつ計2基装備してるなど、対潜武装も充実し、長距離探知能力に優れた米国製高性能大出力低周波ソナーであるAN/SQS-23と合わせて高い対潜性能を獲得している。
さらに本型の最大の特徴は、当時米海軍が採用していた最新鋭対潜兵装である無人誘導対潜ヘリ ダッシュ(DASH:Drone Anti Submarine helicopter
Helicopterの略)を2機搭載している。DASHは米海軍が1950年代末から実施してきた第2次大戦型艦艇の近代化計画であるFRAM計画にもとづく対潜兵器として開発されたもので、米軍では有人ヘリが運用できない駆逐艦・フリゲート艦にDASHを配備した。DASHは2重反転ローターを装備し戦闘時にはMK-44魚雷2本を搭載し発艦、母艦のソナーが探知した敵潜水艦へコントロールされ、最大でアスロック対潜魚雷の12倍(アスロックの射程は9km程度といわれているので110km程度と思われる)の距離にいる敵潜水艦の付近から攻撃可能という、現在のUAVの元祖のような機体である。
ただしDASHにはソノブイやMADなど探知システムを装備していない為、DASHでは潜水艦を探知捜索することはできず、実際にそのような遠距離で探知できるかどうかは別問題で、例え発見できたとしても目標へ誘導するには職人的技量が必要とされる。「たかつき」型はこのDASHの最終発展型であるQH-50Dを米国からのMAP(軍事無償援助)で導入し、艦尾甲板に
DASH用の小型ヘリ甲板と格納庫を設置している。(ただし甲板が小型な為、有人ヘリは着艦できない)DASHは本型と改「やまぐも」型である「みねぐも」型3隻にも搭載されたが、完全な新型としてDASHを搭載したのは「たかつき」型のだけであり、本型の一番の特徴である。
「たかつき」(DDA-164)は1967年竣工後、第1護衛隊群第1護衛隊の司令護衛艦となり、2番艦「きくづき」(DDA-165)は1968年に竣工後、「たかつき」と第1護衛隊群第1護衛隊を編成し、3番艦「もちづき」(DDA-166)は1969年に竣工後、第2護衛隊群旗艦、4番艦「ながつき」(DDA-167)が1970年に竣工後、第3護衛隊群直轄艦となるなど、護衛艦隊の中枢艦の任務に就いた。
以上の様に、「たかつき」型護衛艦は当時でも最新鋭を誇る高性能護衛艦として竣工し、DASHと合わせて対潜作戦を重視する海上自衛隊にとって、洋上対潜ヘリコプター部隊導入前夜の、最有力対潜艦であり、また建造当時は、3000トン級の護衛艦はターター対空ミサイルを搭載したミサイル護衛艦「あまつかぜ」(DDG-163:当初はDDCと呼ばれていた)と本型4隻のみで、当時は海上自衛隊での花形的の存在であった。
また1番艦「たかつき(DDA-164)は69年に後部マック上にタカンを装備、71年には艦尾に米軍制式のもののデッドコピーであるSQS-35(J)VDSを搭載するとともに、護衛艦として初めて「たかつき」のみ戦術情報処理装置NYYA-1を搭載している。(ただしこの情報処理システムは後のシステム艦の様に武器と直結していない)2番艦「もちづき」も71年にタカン、73年にVDSを搭載、また3番艦「もちづき」4番艦「ながつき」(DDA-167)は74年ごろにECM/ESM装置を搭載するなど電子戦能力を向上させるなど、就役後も頻繁に装備の更新・改良が行われ能力向上が常に行われている。
しかし、「たかつき」型の目玉であるDASHは、本家米海軍では運用中に事故が多発し、信頼できる遠距離対潜攻撃兵器には程遠く、「たかつき」(DDA-164)が就役した1967年には米海軍はダッシュの削減を発表、1970年にはDASHの使用を中止し生産も中止となってしまい、米海軍の艦艇ではDASHの代わりにSH-2などの小型有人対潜ヘリ用へ改修してしまった。一方、海上自衛隊では日本人特有の手先の器用さによるものか、DASHの事故は米海軍ほど発生せず、比較的まともに運用し、それなりに評価されていた。しかし本家米海軍が生産を中止、DASHの部品供給が絶たれた事により、海上自衛隊でもDASHの運用が不可能となり1978年には運用を停止せざる終えなかった。その為DASHを搭載すること前提に建造された「たかつき」型の存在意義は建造10年ほどで半減してしまい、昭和51年(1976)以降「きくづき」と「ながつき」のみに、演習用目標である低速標的機KD2R-5型改を運用するように改修された。(同じくDASHを搭載していた「みねぐも」型は改修によりそれまで未搭載だったアスロックSUMを搭載)
また、時は経ち1980年代の第4次防で建造された、ヘリ搭載護衛艦「しらね」型DDH(1980年竣工)を皮切りに、ポスト第4次防で建造された「はつゆき」型DDなど、対空・対潜・対水上などの情報をコンピューターが処理するシステム艦が登場しはじめると、本型の様な人が情報を処理する艦は一気に旧式艦となり、当時のソ連が長距離爆撃機に対艦ミサイルを搭載するようになるのに合わせて開発された短SAM・CIWSなどの新しいタイプの対空兵器の登場により対空兵装が5インチ砲のみという兵装も時代遅れになりつあり、また対艦ミサイルなどの長距離攻撃能力を持たないことが問題となりつつあった。その為システム艦登場以前の本型4隻中2隻とヘリ搭載護衛艦「はるな」型2隻をシステム艦に改修し、兵装も一部近代化と艦齢延長工事を行う、近代改修(FRAM)工事が1980年代中盤に決定された。
「たかつき」型の近代改装FRAMは、後部DASH用ヘリ甲板に「はつゆき」型から搭載されているMK-29シースパロー8連装発射機1基を搭載し、後部MK-42 127mm砲1門を撤去し、後部上部構造を大幅に作り直し、DASH用の格納庫を撤去し、そこにシースパロー誘導用のFCS-2を増設し、2番艦「もちづき」(DDA-165)ではそこに近接防御用に高性能20mm機関砲(CIWS)を1基と(「たかつき」は未搭載)ハープーン対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載し、対空・対艦攻撃能力はそれまでに比べ飛躍的に向上している。なおこの時に撤去されたMK-42砲は当時建造中であった「はたかぜ」型ミサイル護衛艦1番艦「はたかぜ」(DDG-171)2番艦「しまかぜ」(DDG-172)にそれぞれ1門づつ搭載されたとも、言われているが真相は不明である。
またシステムは当時最新鋭艦である「はつゆき」型の処理システムと同じ、OYQ-5を搭載し完全なシステム艦となり、リンク14・リンク11などデーターリンクを装備するなど当時の新鋭護衛艦と同レベルまでネットワーク能力が高められている。またFRAMにより護衛艦の寿命は平均で24年であったのが、艦齢は8年間延長され、32年となり2000年初頭まで運用可能となった。
このことにより「たかつき」型DDAは、対潜ヘリを搭載していない以外は、当時最新鋭汎用護衛艦である「はつゆき」型に準じる性能を獲得し、当時の一級護衛艦としての地位を奪回している。しかし「たかつき」型4隻のFRAM改修は、1番艦「たかつき」(DDA-164)2番艦「もちづき」(DDA-165)の2隻のみに実施され、残された3番艦「もちづき」(DDA-166)4番艦「ながつき」(DDA-167)にはFRAM改修は実施されなかった。これはFRAMなどの大規模改修が実際には効果の割りに費用が掛かるなど費用対効果が悪かった為とも言われる。しかし当時の海上自衛隊が持っていた護衛隊群用のミサイル護衛艦は「あまつかぜ」型1隻・「たちかぜ」型3隻・それと建造中の「はたかぜ」型2隻の計6隻であり、4個の護衛隊群に2隻づつ配備すると2隻が不足しており、当時計画中の「こんごう」型イージス護衛艦が竣工するまでのミサイル護衛艦の繋ぎ用として、「たかつき」型2隻に実施されたのではないかと思われる。
その後「たかつき」型4隻は、FRAM改修を行わなかった2艦は、地方隊へ転属となり、FRAM改修型2艦は当初八八艦隊用ミサイル護衛艦(DDG)が不足して為、DDGの替わりに第4護衛隊群に配属されていた。しかし「こんごう」型イージスミサイル護衛艦の増勢にしたがい、舞鶴地方隊へ転属となった。
90年代に入るとFRAMを実施されなかった艦の老朽化は激しく、3番艦「もちづき」が特務艦となり監視業務や訓練支援に従事した後の、1995年に退役し、4番艦「ながつき」も翌96年に退役、97年には水上艦艇の射撃目標に供されて沈没している。またFRAMが実施された「たかつき」「きくづき」も舞鶴地方隊において2000年初頭まで護衛艦の任務に就いていたが、1番艦「たかつき」が2002年に退役し、解体され、最後に残った2番艦「きくづき」も2005年退役してしまい、現役からは完全に姿を消している。
なお「たかつき」型2隻が搭載されていたMK-29シースパロー発射機2基は、「しらね」型ヘリ搭載護衛艦(2隻)のMK-25シースパロー発射機の代わりに1基づつ搭載されている。「たかつき」型は、海上自衛隊の一時代を築いた優秀な護衛艦であり、後の護衛艦に与えた影響は非常に大きい。また美しく強そうな艦影は海上自衛隊艦艇の中ではファンが多い艦であった。
艦名 | たかつき(FRAM前) | たかつき・きくづき(FRAM後) |
全長 | 136m | |
全幅 | 13.4m | |
喫水 | 4.4m | 4.5m |
基準排水量 | 3050t(もちづき・ながつきは3100t) | 3250t |
満載排水量 | 3900t | 不明 |
機関 | 蒸気タービン2基 2軸 | |
出力 | 60000HP | |
最大速度 | 32kt | 31kt |
航続距離 | 16ktで6000海里 | 不明 |
船型 | 遮浪甲型船体 | |
主砲 | MK-42 54口径127mm単装砲 2基 | MK-42 54口径127mm単装砲 1基 |
対潜兵装1 | アスロックSUM8連装発射機 1基 | |
対潜兵装2 | ボフォース4連装ロケット発射機 1基 | |
対潜兵装3 | 3連短魚雷発射機 2基 | |
対空兵装1 | 無し | MK-29 8連装シースパロー発射機 1基 |
対空兵装2 | 無し | 20mm高性能機関砲(CIWS)1基 (きくづきのみ) |
対空レーダー | OPS-11B | OPS-11C |
水上レーダー | OPS-17 | |
電子戦(ECM) | NOLR-1B(もちづき以降NOLR-5) | NOLQ-1 |
電子戦2 | MK-137 チャフ発射機 2基(後日装備) | MK-137 チャフ発射機 2基 |
射撃指揮装置 | MK-57 2基(ながつきのみ72式1型A) | MK-57 1基 |
射撃指揮装置2(短SAM用) | 無し | FCS-2-12 1基 |
タカン | ORN-6(後日装備) | 無し |
ソナー | AN/SQS-23(もちづきよりOQS-3) | OQS-3改 |
曳航ソナー | AN/SQS-35(J) | AN/SQS-35(J) |
戦術情報処理装置 | NYYA-1(たかつきのみ後日装備) | OYQ-5 |
無人対潜ヘリ | QH-50D 2機 1976年以降「きくづき」「ながつき」のみ 低速標的機KD2R-5型改搭載 |
無し |
乗員 | 270名 | 260名 |
造船所 | 石川島播磨重工東京工場 | |
竣工 | 1967年3月15日竣工(たかつき) |
●DDA-164「たかつき」
1番艦
昭和38年度計画
昭和41年1月7日(1966)進水
昭和42年3月15日(1967)竣工
昭和60年10月31日(1985)FRAM改修完了
平成14年8月16日(2002)除籍
造船所:石川島播磨重工 東京工場
●DDA-165「きくづき」
2番艦
昭和39年度計画
昭和42年3月25日(1967)進水
昭和43年3月27日(1968)竣工
昭和61年12月26日(1986)FRAM改修完了
平成15年11月6日(2003)除籍
造船所:三菱長崎
●DDA-166「もちづき」
3番艦
昭和40年度計画
昭和43年3月15日(1968)進水
昭和44年3月25日(1969)竣工
平成7年4月1日(1995)特務艦に種別変更→ASU-7019
平成11年3月19日(1999)除籍
造船所:石川島播磨東京工場
●DDA-167「ながつき」
4番艦
昭和41年度計画
昭和44年3月19日(1969)進水
昭和45年2月12日(1970)竣工
平成8年4月1日(1996)除籍
平成9年8月(1997)水上艦艇の射撃目標となり沈没
造船所:三菱長崎