むらさめ型 護衛艦

「むらさめ」型汎用護衛艦は、「はつゆき」型「あさぎり」型汎用護衛艦に続き1996年から2002年までに、9隻竣工した第3世代汎用護衛艦である。
「むらさめ」型汎用護衛艦は対潜(哨戒)ヘリ3機を搭載する、ヘリ搭載護衛艦(DDH)×1 ターター/スタンダード長距離SAMをエリア・ディフェンスを受け持つ、ミサイル護衛艦(DDG)x2 対潜(哨戒)ヘリ1機を搭載し、ポイントディフェンス能力を持った、汎用護衛艦(DD)×5 の8隻と艦載ヘリ8機のいわゆる「八八艦隊」編成のワークホースである。
80年代後半から90年代前半に建造された第二世代汎用護衛艦である「あさぎり」型(8隻)が第一世代の「はつゆき」型(12隻)の拡大・改良型であったため、90年代に出現したVLS(垂直発射装置)やステルス性の不備など問題点が発生した。その為当時護衛艦隊所属であった第一世代の「はつゆき」型の更新用として03中期防(平成3〜7年度対象)で、基準排水量4,800t、「ミニ・イージス」と呼ばれる複数同時処理能力を飛躍的に高めた国産の新型FCSを搭載した第三世代汎用護衛艦を計画した。しかし建造費の関係から計画は縮小、基準排水量は4,400t(「あさぎり」型は3,550t)で性能的には「あさぎり」型の性能向上型として建造されることになった。これが「むらさめ」型汎用護衛艦である。

「むらさめ」型の最大の特徴は、ステルス性を意識した外見となっていることである。ステルス形状自体はそれまでに建造していた「あぶくま」型護衛艦(DE)「こんごう」型ミサイル護衛艦(DDG)にも採用されているが、汎用護衛艦として採用したのは本型が初めてで上記の型よりも一段進んだステルス設計となっている。その為艦橋・煙突・ヘリコプター格納庫などの上部構造物すべてが、レーダー反射面(RCS)の低減を図るため、逆V字に傾斜した平面の組み合わせで構成した台形状となっており、船体もV字にテーパーが掛けられ、レーダー電波の反射方向を発信源からそらすように配慮がなされている。また煙突から機関室の熱放射を抑制するなど赤外線ステルスも考慮している。他にも武装の一部をVLS(垂直発射機)化、発射機の形状によりレーダー反射面を増やすことを極力少なくしている。その為外見は同じようにステルス性とVLSを取り入れた「こんごう」型イージス護衛艦を小型化したような印象を受ける。
ただ、ステルス性を重視したと言っても、同時期に建造された欧州艦(仏:ラファイエット級など)などに比べると突起物も多く不徹底な部分も多い。また従来の護衛艦から引き続き採用されているラティスマストが、ステルス性をかなり損なっていると言われている。マストのステルス化はアメリカのイージス駆逐艦「アーレーバーク」級の平面構成されている三脚マストの方が有利ではあったが、三脚マストは重い装置を配置するだけの強度の確保が難しく、逆にラティスマストは、重い3次元レーダーやデータリンクなどを搭載できるだけの強度を与えつつ軽量化を実現するには理想的な構造であったため、「むらさめ」型では引き続きラティスマストを採用したと思われる。しかしステルス性に問題のあるラティスマストも、形状を少し変えるだけでRCSは驚くほど減少する場合もあるので一概に劣ってると断言することはできない。

「むらさめ」型の武装の構成自体は、それまでの「あさぎり」型「はつゆき」型に準じているが、対潜兵装であるアスロックSUMは前記のとおりVLS(Vertical Launch System:垂直発射機)化したMk-41発射機(16セル)を「こんごう」型に引き続き採用、対空兵装のシースパローもVLS化したMk-48発射機(16セル)を海上自衛隊の護衛艦として始めて採用している。VLSにより従来の発射機が、敵の存在している方向へ発射機を向け仰角を合わせて発射する方式から、VLS化することにより敵方向へ向け発射する必要がなくなり、リアクションタイムが大幅に短縮され、また従来の発射機(8発装填が多い)が8発が即応弾・残り8発が予備弾であったのが、16セル=即応弾となるなど、再装填の時間が短縮され、即応性が向上している。
FCSも砲・短SAM兼用のFCS-2-31Bを2基装備することにより複数同時処理も可能となるなど、一部では「イージス抜きのイージス艦」「ミニ・イージス艦」とまだ呼ばれている(実際にはイージスシステムは搭載していないが、この場合は複数同時処理能力が優れていることから名付けられたと思われる)。
また後期型からは試験艦「あすか」で試験されていた通称「ミニ・イージス」と呼ばれる国産新型のFCS-3を搭載も計画されたが、結局改「むらさめ」型である「たかなみ」型も含め、搭載は見送られ、FCS-3は現在建造中の仮称16DDHへ改良型が搭載が予定されている。現在はMk-48VLSに装填されている対空ミサイルを、04年度から1番艦「むらさめ」(DD-101)2番艦「はるさめ」(DD-102)から順次シースパローから、発展型シースパロー(ESSM:Mk-48用のRIM-162C)に変更している。

このESSMは射程が50kmと大幅に延長されただけでなく最大50Gと言う高機動が可能、また従来のシースパローでは不可能だった超低空目標への攻撃が可能となった最新艦対空ミサイルで、最終的には「むらさめ」型全艦と現在建造・竣工されつつある改「むらさめ」型である「たかなみ」型をはじめ今後建造される16DDHなど多くの護衛艦に搭載されることになると思われる。
その為本型の能力は「こんごう」型イージス護衛艦以前のミサイル護衛艦(「こんごう」型も基本的にはこの一種)よりもミサイルの射程・複数同時処理能力は「むらさめ」型の方が上回わっていると思われる。

対艦ミサイルは従来のアメリカ製ハープーンSSMではなく護衛艦で初めて(ミサイル艇1号が初めて搭載)国産の90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)4連装発射機2基となった。このSSM-1Bは航空自衛隊のF-1支援戦闘機などに搭載されている80式空対艦誘導弾(ASM-1)の艦載バージョンで、SSM-1Bはシーカー部にハープーンよりも高い周波数帯を採用し、相手側の電波妨害をより困難にし、さらに終末段階では急激なホップ・アンド・ダイブ運動を行うことによって、敵のハード・キル対応を困難にするなど、ハープーン以上の性能だと言われているSSMである。
しかも管制システムなどはハープーンのシステムと共用性があり、同じ要領で搭載できるので、場合によってはSSM-1BとハープーンSSMの混載も可能である。またCIWSの装備位置も従来艦が艦橋直後の両舷に搭載してあったのを、「こんごう」型と同じように艦の前後(艦橋前1基とヘリ格納庫上に1基の計2基)に配置されるなど、より有効な射界の確保がなされている。

主砲は従来型汎用護衛艦と同じOTOブレダ社のライセンス品の62口径76mm単装砲を装備している、しかし4,400tの船体にはあまりにも砲が小さいなどの批判があり、7番艦以降は砲を「こんごう」型イージス護衛艦から採用している127mm単装砲に変更する予定であったが、結局改「むらさめ」型である「たかなみ」型まで換装されなかった。
それ以外の短魚雷発射機・対潜ヘリ(途中から哨戒ヘリに名称変更)は「あさぎり」型と基本的に同じで,ヘリ格納庫には2機分のスペースが確保されているが、移送レールは1本、支援機材は1機分しか無いため、運用することは困難である。

98年の「能登半島沖不審船」事件以後「むらさめ」型は両舷に、不審船対策用に50口径12.7mm「M-2」を1基づつ計2基搭載している。
レーダー関係・情報処理関係は、3次元レーダー・対水上レーダーは「あさぎり」の後期型で搭載されているタイプの改良型であるOPS-24BとOPS-28 Dを搭載し、情報処理システムは新型のOYQ-9を採用、電子戦は「こんごう」型から搭載されているECM/ESM兼用のNOLQ-3を採用してる。

機関は、「あさぎり」型護衛艦と同じガスタービン推進(COGAG方式)であるが、増速用にGEのLM2500ガスタービン2基と巡航用にロールスロイスのスペイSM1Cガスタービン2基という異なる2つの会社のガスタービンを組み合わせは世界的にも他に例がない。この選定の背景には米英両政府から売り込みがあり、両国の顔を立てた結果とも言われるが真相は不明である。本型の公式速力は30ノットであるが、出力に余裕がかなりあるため最大で33ノット程度までは出せるのでは、と言われている。

「むらさめ」型の乗員数は基準排水量が「あさぎり」型よりも900t近く増えたにも関わらず、逆に「あさぎり」型よりも55名少ない165名となっている。これは日本の若者減少傾向と当時の求職動向(計画時期はちょうどバブル景気ごろで自衛隊は慢性的な人手不足、「日本最後の3K職場」と陰口を叩かれている艦艇乗員のなり手不足等)からみて、護衛艦の定員削減は急務で、艦内各部のコンピューターの導入による自動化・省力化と、乗員の負担軽減(糧食積込装置など機械を使った軽減)、従来の護衛艦の3段ベットを2段ベットの採用により、「あさぎり」型に比べ艦内居住性は格段に向上している。

現在「むささめ」型は9隻で建造を終了し、「むらさめ」型の改良型である「たかなみ」型の建造に移行している。「むらさめ」型は全艦が機動部隊である護衛艦隊に所属し、多数がテロ特法に基きインド洋に派遣た他、「むらさめ」(DD-101)がイラク派遣部隊の機材を積んだ輸送艦「おおすみ」の護衛として任務に就くなど、今後も護衛艦隊のワークホースとして活躍していくものと思われる。

性能諸元

艦名 むらさめ
全長 151m
全幅 17.4m
喫水 5.2m
基準排水量 4,550t
満載排水量 6,200t
機関 COGAG(ガスタービンエンジン4基) 2軸
出力 60,000HP
最大速度 30kt
航続距離 防衛機密
船型 平甲板型
主砲 OTO 62口径76mm単装砲 1基
対空兵装1 Mk-48 シースパロー短SAM(VSL)発射機 (16セル)
対空兵装2 20mm高性能機関砲(CIWS) 2基
対潜兵装1 Mk-41 VLS発射機(アスロック用 16セル)
対潜兵装2 3連短魚雷発射機 2基
対艦兵装 90式SSM4連装発射機 2基
補助兵装 M-2 50口径12.7mm機関銃
対空レーダー OPS-24B
水上レーダー OPS-28D
航海用レーダー OPS-20
対魚雷戦用 SLQ-25 Nixie
電子戦1(ECM・ESM兼用) NOLQ-3
電子戦2 MK-137 チャフ発射機 4基
射撃指揮装置 FSC-2-31B 2基
データーリンク1 リンク11
データーリンク2 リンク14
ソナー OQS-5
曳航ソナー QOR-2
戦術情報処理装置 OYQ-9
対潜ヘリ SH-60J 1機
乗員 165名
造船所 石川島播磨
竣工 1996年3月17日

同型艦

●DD-101「むらさめ」

1番艦
平成3年度計画
平成8年3月12日(1996)竣工
造船所:石川島播磨

●DD-102「はるさめ」

2番艦
平成4年度計画
平成9年3月24日(1997)竣工
造船所:三井玉野(受注:マリンユナイテッド)

●DD-103「ゆうだち」

3番艦
平成6年度計画
平成11年3月4日(1999)竣工
造船所:住友浦賀(受注:マリンユナイテッド)

●DD-104「きりさめ」


4番艦
平成6年度計画
平成11年3月18日(1999)竣工
造船所:三菱長崎

●DD-105「いなづま」

5番艦
平成7年度計画
平成12年3月15日(2000)竣工
造船所:三菱長崎

●DD-106「さみだれ」

6番艦
平成7年度計画
平成12年3月21日(2000)竣工
造船所:石川島播磨(受注:マリンユナイテッド)

●DD-107「いかづち」

7番艦
平成8年度計画
平成13年3月14日(2001)竣工
造船所:日立舞鶴

●DD-108「あけぼの」

8番艦
平成9年度計画
平成14年3月19日(2002)竣工
造船所:石川島播磨(受注:マリンユナイテッド)

●DD-109「ありあけ」

9番艦
平成9年度計画
平成14年3月6日(2002)竣工
造船所:三菱長崎

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