はつゆき型 護衛艦
「はつゆき」型はポスト第4次防衛力整備計画で昭和57年〜昭和62年までに12隻建造された海上自衛隊初の汎用護衛艦で、その後の汎用護衛艦の基礎を築いた護衛艦である。
第4次防までは、1個護衛隊群の編成は対潜ヘリを3機搭載するヘリ搭載護衛艦(DDH)x2、ターター/スタンダード中距離SAMを搭載し、エリアディフェンスを受け持つミサイル護衛艦(DDG)x1、127mm砲を装備した対空護衛艦(DDA)x1、対潜任務を主任務とした対潜護衛艦(DDK)x4隻の8隻対潜ヘリ6機体制であった。
しかしこの編成は海洋のあまり航空勢力が存在しない地域でしか活動できず、70年代後半に出現したソ連の長距離爆撃機によるASMの脅威には対応できないと考えれ、ポスト第4次防では思い切った艦隊再編が行われた。
内容としてはヘリ搭載護衛艦を2隻から1隻にし、ミサイル護衛艦を1隻から2隻に増やし(ただしミサイル護衛艦が不足していたので当面対空護衛艦で代用)、対潜護衛艦を艦隊編成から順次外してそれまでに無かった対潜ヘリ1機を搭載し短SAMによる、ポイントディフェンス可能な汎用型護衛艦(DD)5隻による、8艦・対潜ヘリ8機体制、すなわち「八八艦隊」編成へと移行する決定がなされた。
また護衛隊群を常時1グループを展開させるには、4個グループ必要であり、汎用護衛艦の数は4個グループ分(各5隻)の計20隻必要で、その為に第1弾として建造されたのが「はつゆき」型汎用護衛艦12隻であるである。
「はつゆき」型の武装はそれまで砲と対潜兵装しかなかった対潜護衛艦とはまったく違い、砲は「やまぐも」型の半自動砲50口径76mm連装速射砲2基から「いしかり」型護衛艦(DE)から採用されたイタリアのOTOブレダ社の完全自動砲の76mm62口径単装速射砲1基になり、対艦兵装も「いしかり」型から採用されたハープーンSSM4連装発射菅2基を装備、対空用には新たに採用されたNATO標準タイプのMK-29シースパロー短SAM発射機と高性能20mm機関砲(CIWS)MK-15を2基艦橋後ろの両舷に装備している(1番艦DD-122「はつゆき」2番艦DD-123「しらゆき」は後日装備)。
対潜兵装は、対潜ヘリHSS-2Bを1機搭載でき、遠距離への攻撃が可能で、それ以外の対潜兵装は「やまぐも」型と同じアスロックSUM8連装発射機1基と3連装短魚雷発射機2基を装備し、アスロックSUM8連装発射機はそれまでの1発ずつ補充するローダー・クレーンを使用するやり方から、直接装填装置に変更されるなど改善が行われ、全体として「はつゆき」型の対空・対水上・対潜能力は非常にバランスの取れた構成となっている。
機関は自衛艦として初めて採用するCOGOG方式のオールガスタービン艦であり、巡航時は川崎ロールスロイス・タインRM1C2基で航行し、高速時にはオリンパスTM3Bを2基も使用する。ガスタービンの利点は軽量で・雑音が少なく・起動が早いなどの利点があり。逆に欠点は航空機に使われているジェットエンジンと同じである為燃費が悪い点にある。しかしその欠点を補ってもあまりある利点の為に現在では「はつゆき」型以降の海上自衛隊の護衛艦を初め近年の世界各国の多くの軍艦の主機関となっている。
しかし「はつゆき」型のもっとも大きな特徴は、従来の護衛艦のように「人」が情報を処理するのではなくワークステーション(WS)による情報処理能力の向上による完全な「システム艦」となった点である。これは第4次防で建造された「しらね」型から「システム艦」への移行が実施され、「はつゆき」型以降の護衛艦・FRAM改修を受けた護衛艦を含め「システム艦」が全艦隊に波及していく。
上記のスペックだけを見ているとかなり高性能な護衛艦だと思えるが、「はつゆき」型の基準排水量は、それまでの「やまぐも」型に比べ1000t増え3000t程度になったが、上記の武装を載せるために重量配分上かなりの無理が発生している。その為上部構造物と艦橋の大半はアルミ構造とし、重量軽減をおこなった。
しかしアルミ構造の危険性は1975年の空母「ジョン・F・ケネディー」(CV-67)と巡洋艦「ベルナップ」(CG-26)が衝突した事故で「ベルナップ」の上部構造物が火災で簡単に崩れてしまったなど、アルミ構造の弱点はかなり前から指摘されており、実際なら早急に対策を打つ必要があったが、予算的に見ても基準排水量を3000t以内に抑えることが至上命題であった為なかなか実行されず、フォークランド紛争でのアルミ構造物の危険性が再認識されやっと8番艦DD-129「やまゆき」より鋼構造となった。その為「やまゆき」以降の艦はトップヘビーを抑える為にバラスとを積むなどの対策を行った結果、基準排水量は100t増の3,050tとなった。
当初「はつゆき」型は、新編成の護衛隊群のワークホースとして86年のリムパックに「八八艦隊」編成の中核艦として参加したのを皮切りに多くの演習等で活躍し、次に建造された「はつゆき」型の拡大改良型である「あさぎり」型汎用護衛艦8隻が就役により、「はつゆき」型12隻「あさぎり」型8隻計20隻で「八八艦隊」構想の中核である汎用護衛艦の編成を完了。艦載機も当初のHSS-2BからSH-60Jに更新した。
その後、新型の「むらさめ」型護衛艦とその改良型の「たかなみ」型護衛艦が竣工すると、護衛艦隊からは徐々に姿を消し、その大半の艦は地方隊へ転属となり、12番艦(最終艦)DD-133「しまゆき」だけは艦番号をTV-3513に変更し練習艦となり練習艦隊へ転出した。
現在の「はつゆき」型の護衛艦隊所属艦は第3護衛隊群第3護衛隊に所属する5番艦DD-126「はまゆき」だけである。しかし「はまゆき」も新造の「たかなみ」型護衛艦3番艦DD-113「さざなみ」が竣工するにしたがい、地方隊所属に転出すると思われ、05年内に完全に護衛艦隊からは姿を消すことになる。
練習艦となったTV−3513「しまゆき」は、武装はそのままの状態でヘリ格納庫にプレハブ式の実習員行動を設置し着艦装置も撤去しておりヘリの着艦・格納はできない、しかし機材などは常時積載しており、有事の際には短時間に護衛艦に復帰可能である。また練習艦としては他の現役自衛艦と同じ武装を持つ「しまゆき」は新人隊員を教育する場としては最適で、今後も多くの隊員の教育に使われることになると思われる。
地方隊に所属している「はつゆき」型もヘリを搭載していない以外、不審船対策用に搭載した12.7mm機銃「M2」2門を除き、特に護衛艦隊時代とは性能の変化はない。しかしVLSランチャーとステルス艦・ネットワーク艦の出現により時代遅れの感は否めず、すでに艦齢も初期の艦は20歳を超えていることもあり、今後数年で退役艦も出てくると思われる。
艦名 | はつゆき(竣工時) |
全長 | 130m |
全幅 | 13.6m |
喫水 | 4.1m(みねゆき〜はるゆきは4.2m、やまゆき以降4.4m) |
基準排水量 | 2950t(やまゆき以降3050t) |
満載排水量 | 4000t(やまゆき以降4200t) |
機関 | ガスタービン 4基 2軸推進 |
出力 | 45.000馬力 |
最大速度 | 30ノット |
航続距離 | 防衛機密 |
船型 | 長船首楼型 |
主砲(対空・対艦両用) | OTO 62口径76mm単装砲 基 |
対潜兵装 | MK-112 アスロックSUM8連装発射機 1基 |
対潜兵装 | 3連短魚雷発射管 2基 |
対空兵装1 | MK-29シースパロー8連装発射機 1基 |
対空兵装2 | 後日装備高性能20mm機関砲 2基 (3番艦以降竣工より装備) |
対艦兵装 | ハープーンSSM 4連装発射機 2基 |
補助兵装 | 12.7mm機関銃M2 2基 |
対空レーダー | OPS-14B |
水上レーダー | OPS-18 |
電子戦(ECM) | OLR-9B(やまゆき以降) |
電子戦(ESM) | NOLR-6C(やまゆき以降OLT-3) |
射撃指揮装置(76mm砲用) | FCS-2−21A |
射撃指揮装置(短SAM用) | FCS-2-12 |
ハル・ソナー | OQS-4(2型) |
曳航ソナー | OQR-1 |
戦術情報処理装置 | OYQ-5 |
艦載機 | HSS-2B→SH-60J 1機 |
乗員 | 200名 |
計画年度 | 昭和52年度計画 |
竣工 | 昭和57(1982)年3月23日 |
●DD-122「はつゆき」
1番艦
昭和52年度計画
昭和57(1982)年3月23日竣工
造船所:住友重工浦賀
●DD-123「しらゆき」
2番艦
昭和53年度計画
昭和58(1983)年2月8日竣工
造船所:日立舞鶴
●DD-124「みねゆき」
3番艦
昭和54年度計画
昭和59(1984)年1月26日竣工
造船所:三菱長崎
●DD-125「さわゆき」
4番艦
昭和54年度計画
昭和59(1984)年2月15日竣工
造船所:石川島播磨
●DD-126「はまゆき」
5番艦
昭和54年度計画
昭和58(1983)年11月18日竣工
造船所:三井玉野
●DD-127「いそゆき」
6番艦
昭和55年度計画
昭和60(1985)年1月23日竣工
造船所:石川島播磨
●DD-128「はるゆき」
7番艦
昭和55年度計画
昭和60(1985)年3月14日竣工
造船所:住友重工浦賀
●DD-129「やまゆき」
8番艦
昭和56年度計画
昭和60(1985)年12月3日竣工
造船所:日立舞鶴
●DD-130「まつゆき」
9番艦
昭和56年度計画
昭和61(1986)年3月19日竣工
造船所:石川島播磨
●DD-131「せとゆき」
10番艦
昭和57年度計画
昭和61(1986)年12月11日竣工
造船所:三井玉野
●DD-132「あさゆき」
11番艦
昭和57年度計画
昭和62(1987)年2月20日竣工
造船所:住友重工浦賀
●DD-133「しまゆき」
12番艦(最終番艦)
昭和57年度計画
昭和62(1987)年2月17日竣工
造船所:三菱長崎
平成11年3月18日艦種変更(DD-133→TV−3513)