90式戦車
【キューマル】
90式戦車(きゅうまるしきせんしゃ)は74式戦車の後継として登場した、陸上自衛隊の第3世代型国産主力戦車である。
1977年に部分試作が開始され1982年から試作車両の製作が開始された。1985年に第一次試作車が、1987年9月に第二次試作車の2両が完成、その車両を使って1988年12月まで各種試験が行われた。そして1989年2月に第二次試作車を使って北部、西部、東部の各方面隊に於いて実用試験が行われ、同年12月に実用上ほぼ問題がない事を証明、1990年8月に「90式戦車」として制式採用された。出現当初は、デザインが良く似ていたことから、一部海外ではレオパルト2のコピーと思われていた。
車体、砲塔共に全溶接構造を取り入れ、車体前面及び砲塔前面に複合装甲を採用している。
複合装甲の構造は防衛機密故に明らかにされていないが、チタニウムメッシュ+ファインセラミックを圧延均質鋼板で挟み込んだものだという説が有力で、試験では自身の発射した120mm砲徹甲弾数発に耐えるほどの強固な防御力を示している。砲塔前面装甲はまるで切り立った断崖絶壁の様に成っているが、これは近年の戦車砲の発達により、余り意味をなさなくなった避弾径始は敢えて考慮せず、単純な形状にして製造工程を簡略化するためである。現代のAPFSDSにとって避弾径始の意味をもつには80度以上も装甲を傾斜させねばならないため非現実的である。
その他車体横に歩兵携帯対戦車火器対策としてサイドスカートの装備、弾薬庫と燃料を乗員から隔離して火災や誘爆から守り、それぞれに消火装置を搭載する等、大幅な防御力、生存性の向上が図られた。
主砲は西側標準砲であり、APFSDSを使用すると最大900mmの貫徹力を誇ると言われる、独ラインメタル社製44口径120mm滑腔砲のライセンス生産品である。74式戦車の様に一部の部品を国産品にする等の改修は行われていない。
砲安定の為のスタビライザーを搭載し行進間射撃が可能、さらに自動装填装置が搭載されており4秒で1発以上の速さでの連続射撃が可能となった。尚、自動装填装置故障時は手回しハンドルによる手動装填も可能である。
ただし、砲塔後ろの弾薬庫の中には17発しか砲弾が入らない為、17発撃ちつくした後は極端に発射スピードは落ちるものと思われるが、自動装填装置を導入したことにより装填手分のスペースが削減でき、砲塔を小型化できたのは防御能力上有利であると思われる。
副武装は砲塔上面に対地/対空用の12.7mm機関銃、主砲同軸に対歩兵用に7.62mm機関銃を装備している。
砲塔左側には測距用YAGレーザーレンジファインダーと、照準用に10倍まで拡大可能なパッシブ式熱線画像装置が砲手用に装備されている。射撃統制装置はデジタルコンピュータが搭載され処理速度の向上が図られており、熱線画像装置の映像を元にロックオンした標的を自動追尾する事が可能であり、高い全天候能力有するだけでなく自動装填装置と自動追尾機能・スタビライザーによりカタログスペックだけでない完全行進間連続射撃能力を有する。また照準は砲手が行うが、緊急時は車長もパノラマサイトを用いて砲手に優先して照準を行うことが出来るオーバーライド機能が搭載されている。
防護装備として、対戦車ミサイル等の照準器からレーザー照射を受けた時に警報を発するレーザー警戒装置を砲塔中央に搭載し、またそれに連動して自動発射可能(当然手動発射も可能)な発煙弾を砲塔両サイドに搭載している。他には風向きを測り、弾道計算を補正する為の横風センサも装備している。
エンジンは今までの空冷ディーゼルエンジン系列を止め、より小型高出力を求めた新開発の、トランスミッションを統合したパック方式の液冷ディーゼルエンジンを採用し、それを車体後部に搭載している。最大出力は実に1500馬力を発揮し(1500馬力以上のディーゼルエンジンを独力で開発できるのは、世界的に見ても日本と独程度である)、路上最大速度70km/hまで加速することが可能である(但し燃費はリッター250m程度なので、より改善が求められている)。重量50tの車体は第3世代戦車としては小型、軽量であり、その為機動性にも優れ当然信地旋回も超信地旋回も可能である。
サスペンションは74式戦車で整備性にやや難があり、一部で不評を買った油気圧式が簡略化され、前後各2つの転輪が油気圧、中央の2つはトーションバーのハイブリッド方式となった。その為左右の傾きの変更は行えなくなったが前後に±5度、車高は+170mm〜−255mmの範囲で変更可能である。自動装填機構採用により、乗員は1名減って車長、砲手、操縦手の3名となった。
これら数々の新機軸の搭載により、同世代の戦車と全く遜色のない「本当の意味」での主力戦車となり、隊員の練度も相成って極めて高い戦闘力を誇っている。事実、ヤキマに於ける実弾射撃訓練では行進間射撃にも関わらず3000m先の標的に対して初弾命中させたり、2000年総合火力演習での夜間射撃では、74式戦車が雨天で射撃中止となる中、何ら問題なく射撃を行い高い夜戦能力を示し、最近の富士総合火力演習では開発されたばかりの練習用砲弾使用し、行進間連続射撃を行うなど、海外の武官を驚かしている。
欠点として、国産AFVとしては重量級の50tという車体が、61式、74式の様な鉄道による戦略輸送を不可能にし、そういった場合は艦船や大型搬送トラック等に頼る為、戦略機動性に劣る事で(とは言う物の、開発当初から鉄道輸送は放棄して北海道専用と考えて設計されたので、後から門外漢が「欠点だ」と言って良いかは疑問である)、逆に第3世代戦車で重量50tは最軽量で、一部では装甲防御力が余り高くないのでは?という懸念の声も出ている。
また売りである自動装填装置の搭載による乗員の削減が、皮肉にも「乗員が3名では車両故障等の緊急時に下車した時、周囲警戒が甘くなってしまう」「転輪の交換等に人手が足りない」などと言った声が隊員の間で囁かれる結果となった。
また90式は従来通りの無線による指揮統制を行っているので、近年出現したM-1A2のようなネットワーク機能などC4Iでは圧倒的に劣っており、またその為の改修などは行われそうにない。
最大の問題は、本来なら退役する74式戦車と入れ替わる形で配備されなければならなかったところを、高価格だった故になかなか配備が進められなかった事で、一時は年間40輌の調達が計画されていたところを村山内閣によって半分の年間20輌程度にまで削減され、さらに追い打ちをかける様に新防衛大綱で戦車の定数削減が決まり、現在事実上の生産休止に陥っている。
名称 | 90式戦車 |
製造 | 三菱重工株式会社 |
全長 | 9.8m |
全幅 | 3.4m |
全高 | 2.3m |
乾燥重量 | 50t |
出力 | 10ZG32WT液冷V型10気筒ターボディーゼル 1500HP |
速度 | 50km/h(不整地)・70km/h(整地) |
燃料搭載量 | 1100L |
航続距離 | 400km |
主武装 | 44口径120mm滑腔砲x1(携行弾数32発) |
副武装 | 12.7mm機関銃x1 7.62mm機関銃x1 4連装70mm発煙弾x2 |
乗員 | 3名 |
実戦配備 | 1990年 |
●日本
90式戦車 260両(2002年現在)