87式自走高射機関砲

87式自走高射機関砲は、主に機甲師団に随伴し、敵航空機から味方を守る陸上自衛隊の自走対空砲である。

第二次世界大戦に於いて、地上部隊の機動運用が当たり前となり、それに伴い野戦防空兵器も自走化され、陸自でも発足当初から米軍供与のハーフトラック型のM16、M15、軽戦車の車体を利用したM19、M42と言った自走対空砲を随時配備してきたが(それ以前に第二次世界大戦で航空優勢を奪われ、散々な目にあったという事もあるが)、地対空ミサイルの発達により、そういった対空砲は過去の遺物と見なされる様になった。
だがベトナム戦争に於いて米空軍がミサイルやレーダーを避けるために低空侵攻を行った結果、時代遅れと見なされていた対空砲によって多大な被害を被り、低空侵攻をしてくる航空機に対してはまだ有効性がある事が証明された。そういった事から、旧態依然と化したM15やM42に代わる、新型自走対空砲の開発が1978年の開始された。まず部分試作より始まり1982年になると全体試作に移行、1983年に砲塔の開発に難儀しながらも試作初号車が完成、1984年から1985年に掛けて技術試験を行い、1985年〜1987年の実用試験の結果、1987年8月に「87式自走高射機関砲」として正式採用された。
余談としてこの試作車は、その後92式地雷原処理ローラーの試験に供された後、現在は陸自朝霞駐屯地内、陸上自衛隊広報館に展示されている。

車体は均質圧延鋼板の箱形溶接構造で、外観はやや異なるが基本的には74式戦車の車体をベースとし、油気圧式サスペンション、エンジン、トランスミッション等はそのまま利用し、74式戦車では弾薬庫であった車体右側前部に、電子装備の電力供給用補助動力装置が新たに搭載された。開発当初はコストダウンもかねて、旧式化して現代の対戦車戦には使えそうにもない、61式戦車の車体を流用する予定であったが、電子機器が満載された砲塔の重量が予想以上にかさみ、61式戦車の車体では荷が重いことが判明、結局74式戦車の車体を使用することとなった。もちろんこの車体は中古品ではなく新造である。

主武装はスイスエリコン社製90口径KDA35mm機関砲で、これを日本製鋼がライセンス生産した物を砲塔式に左右2門搭載する。これは89式装甲戦闘車の主砲KDEと同系列の強力な機関砲で、発射速度は一門あたり毎分550発、有効射程は3000〜3500mと成っており、使用弾薬には徹甲弾、徹甲榴弾、曳光弾がある。対地対空両方に使用できるが、対空用弾倉と対地用弾倉は別に成っており、対地用弾倉は機関砲基部外側に装備されている。弾薬には近接信管が装備されておらず、標的の撃破には直撃を要することから、本車の仮想敵は軽い装甲を備え、砲弾の破砕効果では撃墜しにくい戦闘ヘリコプターを主に想定、副次的には対地支援にも使う考えの様である。

砲塔の後方にはパルス・ドップラー式で20km程の探索距離を持つ、棒状の探索レーダーと、皿形でロックオンした標的を追尾する為の追尾レーダーを装備している。当然ながら多目標同時攻撃は不可能だが多目標の捜索は可能で、それらを司る射撃統制装置は高い処理能力を備えたデジタルコンピュータ方式を採用、低空における空中目標の捜索、捕捉・追尾、機関砲の発射までがリアルタイム演算され、それに合わせて車体、砲の動揺修正も全て自動的に行なわれる。これが87式AW(Automatic Weapon)と呼ばれる所以である。
その他にもバックアップとして、TVカメラ方式の光学照準器や暗視装置、レーザー測遠機等も装備しており、ECM環境下でもそれなりの戦闘が行える。乗員は車長、砲手、操縦手の3名。

本車はこのジャンルの車両としては世界最高とも言える性能を持ち、また90口径35mmx2と言う装備は航空機だけでなく、地上の軽装甲車や歩兵に対して”兇悪”とも言える制圧力を発揮し(個人的には生身で一番攻撃されたくない車両である)、先に発見、攻撃出来ればという条件は付くが、軽装甲車両はおろか、当たり所によっては主力戦車も撃破可能であると思われる。だが、本車最大の問題はその価格で、高度なエレクトロニクスを満載した結果、一両あたり14億〜16億円という価格になり、結果年間の配備数は1〜2両で配備先も高射教導隊と第7師団第7高射特科大隊、第2師団第2高射特科大隊と限られている。さらに皮肉なのは対戦車ミサイルの長射程化により、最大の脅威である仮想敵の戦闘ヘリコプターにアウトレンジされる問題も抱えており、費用対効果と言う面でも最悪と言わざるを得ない。

尚、ドイツには本車と瓜二つの「ゲパルド」と呼ばれる対空自走砲が存在しているが、本車の方が砲塔が小型で7t程自重が軽く、さらにレーダーや射撃統制装置の処理能力ではゲパルドを上回る。用途が同じなら形も似るという典型であり「他人のそら似」であるのだが、当初ゲパルドと同じレーダー配置を取ろうとしたが、その配置方法に特許があった為、現在の配置に成ったのは有名な話で、全く参考にしなかった訳では無い様である。

性能諸元

名称 87式自走高射機関砲
製造 三菱重工(車体)日本製鋼所(砲塔)三菱電機(射撃統制装置)
全長 7.99m
全幅 3.18m
全高 4.4m
乾燥重量 38t
出力 10ZF22WT型空冷V型10気筒ターボディーゼル 720HP
速度 53km/h(整地)
燃料搭載量 950L
航続距離 300km
主武装 90口径35mm機関砲x2
副武装 無し
乗員 3名
実戦配備 1990年

派生型

なし

配備国

●日本

87式自走高射機関砲 50両(2001年)

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