●メルカバMk.1
●メルカバMk.2
●メルカバMk.3
●メルカバMk.4
メルカバ
【Merkava】
メルカバ(ヘブライ語で古代戦車の意味)は、イスラエルの国産主力戦車である。 大きく分けてメルカバMk1、Mk2、Mk3、Mk4の4形式があり、Mk2までが第2世代、Mk3以降は第3世代戦車に相当する。
イスラエルは1960年代後半、当時イスラエル軍の主力であった戦車、すなわち英国製センチュリオン、アメリカ製M48、M60を更新し、シリアやエジプトの装備していたソ連製T-54、T-55、T-62に対抗するため、英国製チーフテン戦車の購入を計画していた。しかし1967年の六日間戦争でイスラエルがエジプトへ先制攻撃を仕掛け英国からの反発が強まったため、この契約は破棄されてしまった。イスラエルにとって導入するのに適当な戦車が他になかったため、イスラエルは独力で主力戦車を開発する必要に迫られた。
その結果、イスラエルは1970年にイスラエル・ミリタリー・インダストリーズ(IMI)を主契約として、一国による完全国産を目指して主力戦車の開発を開始した。
設計する間にも、1973年にはヨムキプール戦争が勃発し、イスラエル戦車部隊は大きな損害を受けてしまった。この戦いでは、イスラエル軍が戦車を重視するあまりに歩兵を軽視して大きく損害を出した他、ヨーロッパの比較的平坦な場所で戦うことを想定して作られた戦車はイスラエルの戦場にやや不向きであることも分かった。その結果、新戦車のコンセプトは速度や攻撃力を犠牲にしてでも防御力を重視し乗員を護るということになった。~
そうして完成したのがメルカバMk1である。1977年に諸外国に公開されたとき、メルカバMk1の特異な構造は関係者を驚かせた。
メルカバMk1最大の特徴は、人的資源の少ないイスラエルが自軍の人的被害を最小限に抑える事を目的に、歩兵戦闘車のようにエンジンとトランスミッションを車体前方に配置して、車体後方には弾薬庫兼兵員輸送室とハッチを設けたことである。このハッチは万一自らが撃破された際に乗員の脱出を容易にするほか、戦闘中、歩兵を収容して移動などができるだけでなく、戦闘中に継続的な弾薬の補給も容易にした。出現当初は兵員を収容出来る事から、歩兵戦闘車の様な運用もなされると思われていたが、実際には副次的に歩兵の緊急避難や後方移送が行えるだけで、通常歩兵を乗せたまま戦闘行動は行わない。
メルカバMk1の装甲は全面に中空装甲を採用し、その空間にはディーゼル燃料を満たすことで特に成形炸薬弾に対する防御力を重視してある。さらに、エンジンが車体前方にあるため、装甲板によって砲弾を防御し切れなかったときにも、エンジンを利用して乗員を護るようになっている。そのほか対物ライフル対策の為、照準口前面に跳弾板が装備されていたりと、細かい部分でも人命重視の思想が見て取れる。エンジンは戦闘状況下でも1時間以内で交換ができると云われており、エンジン交換に丸一日掛かっていた以前の戦車から大きく進化している。その反面、前面の装甲がエンジンの交換パネルを兼ねており、その右側面に排気口があるなど、メルカバMk1の装甲自体はやや脆弱であり、乗員の死傷率こそ低いものの、車両そのものは撃破されやすい。
主砲は当時西側戦車で一般的だった105mm旋条砲(ライフル砲)である。中東戦争の戦訓によって、砲弾は最大で62発と極めて多い搭載量を誇る。 これは現在韓国で使用されているK1A1戦車のほぼ2倍にあたる数字である。砲塔は被弾径始を考慮された楔型をしており、車体の割には小さくまとめられている。
メルカバは3挺の7.62mm機関銃を搭載している。そして車長用に12.7mm機関銃を搭載してあり、諸外国の主力戦車と違い対人戦闘を強く意識していることが伺える。搭載する機銃弾は7.62mm弾だけでも10000発にも及び、これは一般的な戦車の2倍近い数字である。
その他、砲塔右側面に60mm迫撃砲を装備するなど、対人戦闘も強く意識してあることが分かる。 この迫撃砲は幅広い使用が可能で、実戦では照明弾で赤外線暗視装置を攪乱することもあった。
一方、エンジンは空冷12気筒ディーゼルで900馬力であり、さらにサスペンションがトーションバー方式ではなく、対地雷や交換の利便性を優先したやや古くさいヘリカルスプリング構造であるため機動性がやや悪く、重装甲を採用したこともあって最大速度は46km/hしか出なかった。
メルカバは1979年に実戦配備され、初の実戦は1982年にレバノン侵攻作戦(ガリラヤの平和作戦)であった。メルカバはこの戦いで7両が撃破されたものの、105mm砲の限界ともいえる3000m以上の交戦距離で当時撃破不能と言われていたソ連製T-72戦車をほぼ一方的に撃破し、メルカバの高性能世界に示すこととなった。中東戦争で激戦を経験したイスラエルの戦車兵の技量の高さ、優れた戦術も勝利に大きく貢献した。
このレバノン戦役の戦訓を取り入れられての改良で生まれたのがメルカバMk2である。
メルカバMk2の改良は小規模なものである。具体的には、砲塔側面等の装甲が強化されたほか、射撃統制システムやNBC防護システムも進化した。その他に従来は砲塔側面に装備されていた迫撃砲が内部に搭載されるなどしている。そのため外見上は追加装甲の有無や迫撃砲の配置が大きな相違となる。
メルカバがその姿を大きく変えたのは、後に登場したメルカバMk3である。新たな時代に対応すべく、第3世代戦車としてほぼ全ての面で新たに設計しなおされており、全くの別車両といっても良いものである。
まず、主砲は国産の44口径120mm滑腔砲に換装された。 火器管制装置や砲安定装置にも大幅な改良が加えられた結果、行進間射撃等も可能になり、西側第三世代戦車と肩を並べる攻撃力を手に入れた。
装甲は従来の中空装甲から交換の容易なモジュラー式装甲になっており、材質等は不明であるが、強化セラミックではないかと云われている。外見は特に砲塔のデザインが大きく変わっており、特徴のある砲塔の根元の膨らみが無くなり、より直線的な外観を持っている。
Mk2以前の弱点であったエンジンも換装され、1200hpの出力をもつ新たな空冷12気筒ディーゼルエンジンを搭載し、さらにサスペンションもコイルスプリング式に改良され、最大速度は60km/hとなり機動性も増した。これも西側の標準に達したといえる。
メルカバMk3は1989年に実戦配備に着き、現在のイスラエル戦車部隊で主力を成している。
メルカバの最新型は、Mk3をさらに近代化したメルカバMk4である。
最大の特徴はデジタル通信装置の搭載で、C4I機能が大幅に強化されたことである。湾岸戦争で米英軍の戦車がイラク軍戦車を一方的に撃破したように、現代戦で最も重視される通信機能が強化されたことで、メルカバの優位はますます揺ぎ無いものになった。
装甲も強化され、砲塔が左右に大きく張り出した形となり、それまでの楔形砲塔と大きく異なっている。正面装甲のみを重視する戦車が多い中、対戦車ロケットに対する側面装甲、トップアタックに対する上面装甲、対戦車地雷を意識した車体下の防御にも大きな力を入れているのがメルカバMk4の特徴のひとつで、機動力以上に防御力を重視するイスラエルの思想が伺える。
火器管制装置などにも改良が加えられた。エンジンはゼネラル・エレクトリック・ランド・システムズの液冷ディーゼルエンジン"GD883"(1500HP)に変更された。
Mk4の量産型は2002年に製造されており、Mk3とともにこれからのイスラエル戦車部隊の中核となるはずである。
名称 | メルカバ Mk1 | メルカバ Mk3 |
主契約 | IMI | IMI |
全長 | 8.6m | 8.6m |
車体長 | 7.45m | 7.97m |
全幅 | 3.70m | 3.72m |
全高 | 2.75m | 2.80m |
最低地上高 | 0.47m | 0.49m |
乾燥重量 | 60-63t(?) | 65-69t(?) |
出力 | ADVS1790-5A空冷V型12気筒 ターボディーゼル 900HP |
ADVS1790-9AR空冷V型12気筒 ターボディーゼル 1200HP |
速度 | 33km/h(不整地) 46km/h(整地) |
55km/h(不整地) 60km/h(整地) |
燃料搭載量 | 900L | 1400L |
航続距離 | 400km | 500km |
主武装 | 105mmライフル砲x1(携行弾数62発) | 120mm滑腔砲x1(携行弾数48発) |
副武装 | 12.7mm機関銃x1 7.62mm機関銃x3 60mm迫撃砲x1(外部) |
12.7mm機関銃x1 7.62mm機関銃x3 60mm迫撃砲x1(内部) |
乗員 | 4名 | 4名 |
実戦配備 | 1977年 | 1989年 |
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