ダナ
【Dana】

ダナ自走砲はチェコスロバキアが開発した世界でも珍しい装輪型の自走砲である。

まず、何故装輪式が珍しい存在なのか?それはもともと自走砲が、牽引砲が移動するのが不便であった点を解決する為に開発された物だからである。牽引砲では文字通り、牽引する為の車両を必要とするが自走砲であれば機動力が格段に向上する。そして、その搭載車両は泥寧地帯等の不整地の走破能力が高く、迫撃砲や無反動砲はまだ別として大口径砲の反動に十分に耐えうる装軌車両であることが望ましい。それは、装輪式がタイヤで地面から車体を点で支えるに比べて装軌式がキャタピラで面を支える方が地面に安定しており、走破能力が高い為である。事実、ロシアなどの道路事情が悪く、不整地が多い国では装輪装甲車よりも装軌車両が高い割合で運用されている。さて、問題だけを取り上げてしまったが、装輪式は高い機動力を持っており長距離の移動にも適している。例えば、道路事情が良かったり、雨の降らない乾季が年に数ヶ月続くサバンナの国等、走行に支障が出るような泥地等の不整地の無い国とっては装軌式を上回る迅速な移動が可能である。
上記の理由等で80年代に南アフリカがG6ライノ自走砲を、そして70年代後半よりチェコスロバキアがダナ自走砲を開発している。

1970年代後半にチェコスロバキアは、ワルシャワ条約機構での運用を考えた次期自走砲を欲した。そして当時の東側では旧ソ連の2S3アカーツィヤ152mm自走砲が一番望ましかった。だが、チェコスロバキアでは国内産業、それも古くから盛んであった工業の保護等の観点から、次期自走砲はチェコスロバキアの自主開発とされた。開発は1970年代後半から始まり、西側に存在を知られた1980年から量産が開始されたと見られ、実戦配備は81年から始められている。

ダナで一番注目すべき点はやはり装軌式では無く、装輪式を採用している点であろう。先述した通り、装輪式は装軌式に比べて悪路走破性に於いて劣るものの、機動力と航続距離の点において装軌式を凌駕する性能を持っている。チェコスロバキアがダナに装輪式を選んだのには、ワルシャワ条約機構の呼びかけに応じて急速に部隊を展開する能力を求めた事と、東欧に於いてチェコスロバキアが比較的道路事情がよかったので装輪式の長所であるその機動力を最大限に発揮できうる状況にあったことに起因している。


ダナは前部に操縦室、真ん中に旋回式砲塔、後部に機関室を備えた一般的な形となっている。操縦室内部には、左に運転手、右に車長が座り、操縦室前方に備えられた2つの防弾ガラスの窓は戦闘時には装甲板を降ろすことが可能となっている。砲塔内部は、中心に置かれた主砲で車内の乗員区画を分けた物で、左側に砲手と装填機操作手、右側に弾薬手が配置されている。車体は防弾板の溶接構造で構成されており、小口径弾や弾の破片に耐えうる一般的な自走砲とほぼ同レベルの防護能力を有している。ダナはその車体にNBC防護能力を持ち、操縦席前窓の装甲板の両脇および車体両側面には自衛用として射撃ポート(銃眼)を備えている。

ダナの搭載砲はソ連製D-20牽引式37口径152mm榴弾砲をチェコスロバキアで独自改修した37口径152mm榴弾砲で、変更された点としては単作動式の砲口制退器が砲の先端に取り付けられ、砲身の上にあった駐退復座器は下方に移されている。ちなみにこの砲の射程距離は通常の榴弾で18.7kmで、ベースブリード弾(延伸弾の一種)使用時では28.23kmとなっている。砲の発射速度は毎分5発となっている。砲の発射時には、両側面および後部で計3基設けられた水圧駆動のジャッキを降ろし、車体を固定する。砲塔は限定的ではあるが225度の旋回が可能である。そして、ダナは自動装填装置を装備し、右側の区画に砲弾、左側後部に装薬筒がケースにセットされて収容されている。これにより、閉鎖器開放、排莢、装填、閉鎖は完全にオートメーション化されており、装填手の役割は実質、初弾発射時の閉鎖器開放や自動装填装置の故障の対応、信管の調整だけである。さらに装填はどの角度からでも行うことができるようになっている。

弾薬には榴弾の他に対戦車用にHEAT(成形炸薬弾)も用意されており、ある程度の対戦車能力が付与されている。だが、小銃弾や榴弾の破片程度しか防御能力がなく、自走砲としての任務性からもしても本車が実際に対戦車戦闘を行う機会はあまりに少ないと思われ、この対戦車能力はあくまでおまけ程度としてみるべきだろう。ちなみにダナの搭載弾は60発であるが、車体各所に弾薬収納ボックスがあり、10〜30発程度の弾薬を追加して搭載できるという。

ダナはそのベース車両にチェコスロバキアの車輌製造の老舗タトラ社のT815型トラックの8輪型815VP31 29265トラックを使用している。「T815」シリーズは1982年 に初登場したモデルで、4輪・6輪・8輪トレーラー仕様など多彩なバージョンがある。タトラ社のT815型トラックは元は民間用でありながら、軍用にも数多く使用されており、輸送任務はもとよりOT-64装甲兵員輸送車への改装や、RM-70自走多連装ロケット・システムのベース車体等にもされている。2004年現在でもタトラ社の主力モデルとして君臨している。ダナ後部の機関部には、タトラ2-939-34 V型12気筒空冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジンと、前進5段/後進1段の手動変速機を組み合わせたパワーパックが搭載されている。また、タイアには空気圧調整装置を持ち、装軌式には流石に及ばない物の不整地行動能力も高い。

ダナ自走砲は生産自体は終了しているものの、チェコスロバキアが分裂した現在でもチェコで135輌、スロバキアで273輌が現在でも運用されている。またポーランドとリビアに対して輸出され、ポーランドでは111輌リビアでは、80輌が運用中となっている。

性能諸元

名称 ダナ
製造 ZTS社
主任務 支援砲撃
全長 11.156m
車体長 8.87m
全幅 3.00m
全高 2.85m
戦闘重量 29.25t
出力 タトラ3-930-52V
12気筒空冷スーパーチャージド・ディーゼルディーゼル 345HP
最高速度 80km/h(路上)
燃料搭載量 不明
航続距離 740km
主武装 39口径152mmカノン榴弾砲(携帯砲弾60発+?)
砲俯仰角 −4〜+70度
副武装 DShK12.7mm機関銃x1
乗員 5名
実戦配備 1981年

派生型

●ズザナ

ダナの152mm砲を新型の155mm砲に換装し、各部に渡って細かい改良が加えられている。スロバキア陸軍およびギリシャ陸軍が採用した。
詳しくはズザナ/zuzana 155mm自走砲項を参照。

●オンダヴァ

ダナの主砲を53口径152mmカノン榴弾砲に換装し、新型弾薬の使用を可能にした型。試作のみ製作。

配備国

●スロバキア

273輌

●チェコ

135輌

●ポーランド

111輌

●リビア

80輌

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