●ASM-135
ASM-135の基本形。
●CASM-135
キャプティプ弾。MHVを装備しない。
ASM-135
【ASAT - エイサット】
本ミサイルはアメリカが開発した、ソビエト連邦の人工衛星を破壊するための空対衛星ミサイルである。
なお、ASATとはAnti-SATellite weapon.つまり対衛星兵器の略称であり、これには他のミサイルやレーザー兵器なども含み、ASM-135の固有名詞というわけでは無い。
ASM-135は、1970年代後半にソビエト連邦が開発していたASATの一つ、キラー衛星に対抗する一手段として開発が開始された。
キラー衛星とは地球の軌道上を飛翔し、ある特定の任意の人工衛星に接近、ランデブーした後にミサイルで攻撃を加えることのできる装備を持った攻撃用人工衛星である。しかしこの方式は一度攻撃を行った後に別の目標を捕捉するには軌道に移らなければならず、莫大なエネルギーを必要とするため事実上不可能であった。そのため衛星を衝突・自爆させて破壊する方式がキラー衛星の主流となっていた。ソビエト連邦は60年代後半からこのキラー衛星の試験を数度行っていた。
キラー衛星自体宇宙から涌いて出るわけではないので、当然軌道上に打ち上げなくてはならない。事前に臨戦態勢にあっても、1つ打ち上げるのにも最低1-2時間の時間を必要とした。そのためキラー衛星に対しキラー衛星を迎撃に送り込むのは迅速性の面で事実上不可能であった。また、その他に検討されていた地上・宇宙発射レーザーは、そもそもレーザー兵器自体が未開発であったこと、固定式地上発射ミサイルでは目標となるキラー衛星が地上発射ミサイルで捕捉可能な軌道面に飛来する迎撃のチャンスは1日に2度しかなかった。その点、空中発射式は固定発射サイトを使用しないことによる高い防御性、発射母機を利用することにより、経緯度、地形に左右されないこと、そして何より最短数分で攻撃できる迅速性が最大の利点であった。また技術面、コスト面においても他を上回っていた。よってアメリカのASATシステムの主力は空中発射式の対衛星ミサイルとなり、搭載母機の選定は当時桁外れの世界最高の上昇力を持っていたF-15Aイーグルに決まった。
ASM-135ASATは2段式のミサイルである。1段目はAGM-65SRAM巡航ミサイルのSR75-LP-1固形燃料ロケットを流用し、2段目にはSTAR20B
アルテアIII固形燃料ロケットが使用され、ほぼ真空を飛翔するためヒドラジンを燃料とした姿勢制御用スラスターを装着している。2段目の先端部には弾頭であるMHV(Miniature
Homing Vehicle:細密誘導装置)が置かれている。
MHVはその形状から通称「flying tomato can:空飛ぶトマトの缶詰」と呼ばれ、リングレーザージャイロ慣性誘導装置と9つの赤外線望遠鏡シーカーが配置されており、液体ヘリウム冷却システムがリングレーザージャイロを維持する。なお冷却システムは母機に装備後1時間で機能を停止する。弾頭は炸薬を搭載せず衝突エネルギーを利用した。
最大射程はおよそ高度800Kmで、有効射程は600Km以下と推測され、軌道には乗らず弾道飛行で飛翔する。キラー衛星や偵察衛星、軍事用通信衛星の殆どは100-500Km程度の低層軌道を飛行しているため、目標となりうる殆どの衛星が射程に入る事となる。なお、静止衛星の高度は36,000Kmであり、本ミサイルの射程圏外である。
ASM-135を搭載したF-15Aは指令を受け指定の空域まで飛行し、データリンクによるHUDへの表示及び音声での指示を受け、標的衛星に正対する形にハイレートクライムを実施し高度2万-2万5000mまでズーム上昇。そのままの姿勢でミサイルを分離しF-15は帰投する。後はASM-135自身で自律誘導が行われる。
切り離し後、1段目のSR75-LP-1固形燃料ロケットが燃焼を開始し、1段目は燃焼後に投棄。2段目アルテア3が燃焼を開始し、スラスターによる姿勢制御も同時に行われる。この時点ではすでに大気と呼べるような気圧は無く舵による修正は不可能である為。2段目が燃焼しきるとジャイロ効果により弾道を安定させるため先端部が回転しMHVは1秒に20回の回転が与えられて誘導システムが作動する。MHVが目標を補足するとアルテア3の切り離しが行われ、2段目が投棄される。MHVに装着されたチューブロケットにより微修正が行われ目標へと接近する。目標は機動を行わないため、通常の空対空ミサイルのような頻繁な修正は行われない。なお、この時点で対地速度は最低でも4Km/s(14400Km/h)〜8Km/s(28800Km/h)以上である。
前述のようにMHVには炸薬は搭載されていないため目標に真正面から直撃することにより破壊する。当初は近接信管により破片効果で破壊することが計画されていたが、技術的に難しく断念された。
同ミサイルの第1回目試射は1985年9月13日に行われ、F-15A(77-0084)によって高度555kmの軌道上にあった廃棄された太陽観測衛星P78-1に対し発射され、見事目標を捕捉、破壊した。試射に成功したことによりASM-135Aの正式名称が与えられ、キャプティプ弾はCASM-135Aと命名された。しかし、この試験がASM-135の最初で最後の実弾発射であった。
レーガン大統領が提唱した“スターウォーズ計画”の中で唯一実用化寸前にまで扱ぎついたミサイルであったか、対人工衛星兵器は宇宙の平和利用に関する条約に抵触するとして結局生産のための予算は付かず、ASM-135の試験は1988年に終了した(偵察衛星などは軍事利用であっても黙認されている)。
なお、ナイキ地対空ミサイルを母体としたASAT、B-47から空中発射型ASAT、射程垂直1500Km、水平2500Kmにも及ぶ核搭載ASATも計画されたが、ASM-135同様完全に中止された。
なお、ソビエト連邦はASATの成功によりキラー衛星の開発が一時的に活発化したが、同連邦崩壊に伴いキラー衛星の開発は頓挫した。
アメリカがキラー衛星はASATのようなシステムに比べてあらゆる点で非効率であると判断したのに対してソビエトは何故キラー衛星に頼ったのであろうか。おそらくはソビエトの後進的な電子機器では相対速度毎時数万キロメートルでの誘導システムを構築できなかったのであろう。軌道上に乗ってしまうキラー衛星であらば、極端な話、歩行するような接近率でも構わないのだから、ミサイルのような相対速度を要求されない。そういった観点から、このミサイルを1度でも成功に導いた技術はソビエトにとってみれば脅威であったと思われる。(なおソビエトも地上発射型のASATを開発していた。)
製造 | ボート社 |
主任務 | 対人工衛星 |
全長 | 5.42m |
翼幅 | -- |
直径 | 0.51cm |
重量 | 1,180kg |
弾頭 | MHV/エネルギー衝突弾頭 |
射程 | 垂直方向800Km(最大) |
誘導方式 | 赤外線誘導 |
エンジン | 1段目:SR75-LP-1固形燃料ロケット(加速用) 2段目:STAR20B アルテア-III 固形燃料ロケット(加速用) 27.4 kn &ヒドラジン姿勢制御用スラスター 3段目:MHV搭載チューブロケット(姿勢制御用) |
初発射 | 1985年 |
●ASM-135
ASM-135の基本形。
●CASM-135
キャプティプ弾。MHVを装備しない。