Su-33
【FLANKER D - フランカーD】
(PHOTO:MAKS)

Su-33フランカーは、現在ロシア海軍が保有する唯一の固定翼艦載機である。
別名Su-27KフランカーD。「フランカーD」の名称は1990年代後期にアメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド等の国防省が審議して決める航空機標準化調整委員会=ASCCによって付けられた。

開発の発端は1970年頃旧ソ連が考案していた「航空母艦建造プログラム」の一環として「新型AWACS(YaK-44Eだと思われる)と新型艦載戦闘機を開発し、艦隊防空をさせる」と言う構想から始まった。この頃はまだソ連にはカタパルトの技術が無く、そのため開発段階から「スキージャンプ方式で発艦させる」と言った方法を事前にスホーイ(Su-27K)・ミコヤン(MiG-29K、MiG-27)・ヤコブレフ(YaK-44E)の各設計局に通達していた。ちなみにMiG-27については後部胴体下面にフックを付けて何度か地上でテストされたが、「旧式の理由から途中と破棄された」と言われている。

開発は1982年初期から始まり初めにT-10数機を使用してそれぞれにカナード・着艦フック等別々のパーツを装着、クリミア地方の基地で普通の滑走路を使用した模擬着艦のテストを行い着艦時の操縦性のデータを集めた。次に発艦に関しては8月3日から準備が始まり、滑走路についても偽装空母(空母デッキのみ再現)を使用しテストも本格的なものとなった。そして8月28日はT-10 3号機(パイロット:ニコライ・サドフニコフ)が初めて模擬空母デッキからの発艦に成功している。その後1984年には模擬空母デッキが改良され離発着のテストが何百回も繰り返された。
(PHOTO:SUKHOI)
機体の本格的な設計は1984年ソビエト政府の承諾から始まり、1986年8月6日には機体の最終的なデザインが完成した(主任設計者はコンスタチン・フリストフォロビッチ・マルバシェフ)。そして1987年原型1号機T-10K(機体コード37)が完成し8月17日に初飛行、続いて2〜8号機まで製作された。試作機は1〜8号機まで同じ形で主翼折りたたみ能力・二重スロットフラップ・着艦フック・UPAZバディ空中給油プローブ等を標準装備しており、4号機以降は12箇所のハードポインドが追加されている。空母トリビシ(後にブレジネフ、現在はアドミラル・クズネツォフ)でのテストは1989年11月11日から開始され、「コブラ機動」で世界的パイロットとして有名なビクトル・プガチョフがV/STOL機以外の艦載戦闘機として始めて空母着艦に成功させた(使用機体はT-10K 試作2号機)。ちなみにこの頃MiG-29Kフルクラムも同時に試験運用しており、初めて運用試験に望んだパイロットは「タフター・オバキロフ」である。

なお、1990年には西側機が地中海で試験中のアドミラル・クズネツォフ艦上で新型艦載機を確認、この事件がきっかけで西側諸国に初めて「艦載型Su-27」の存在が確認されている。元々Su-27のカナード装備型の存在(後にSu-27M/Su-35スーパーフランカーと呼ばれる)は前々から知られていたが艦載型の存在は知られていなかった。


1991年に最終的な調整が始まり1994年には国家受諾試験に合格、同類のMiG-29KやYaK-44Eが予算の関係上不採用になった中Su-27Kだけが採用された。Su-27Kが生き残った理由にはスホーイ設計局主任ミハイル・シモノフの政治的関与説が有力であるが、詳しい事はよく分かっていない。その後1994〜1996年の間に十分に経験を積んだパイロット達が集まったAV-MF(ロシア海軍航空部隊)セヴェロモルスク第100海軍戦闘機連隊第1飛行隊(別名レッド64、飛行隊のマーキングは鷲)が編成された。部隊編成時は18機のSu-27Kを保有しおり、その中には最終段階で使用された試作機も含まれていると言う。なおスホーイ設計局が正式にSu-33と言う名称を与えたのは1998年8月の事で、それまではSu-27Kと呼ばれていた。
(PHOTO:MAKS)
Su-33の性能は基本的には殆どSu-27Bと変わらないと言える。違いとしてはカナード・アレスティングフック・ダブルスロッテットフラップ・空中給油プローブ・強化型離着装置・主翼折りたたみ機能がある事でさらに着艦時の衝突を防ぐためにテールコーンが短縮、そのためチャフ/フレアディスペンサーの搭載数が減少している。対艦攻撃についてはKh-41モスキートやAS-17クリプトン空対艦ミサイルを運用出来るが、搭載レーダー(Su-27B等のフランカーも基本的には艦艇の探知は可能)の関係上艦艇を探知し難く攻撃目標は非常に制限する。更にKh-41モスキートについてはそのミサイルの大きさから「運用は不可能」と言う不確定情報もある。

このように原型機と殆ど変わっていない機体だが逆に利点も存在する。それは機体の操縦の仕方がSu-27と同じため地上での機種転換教育が簡単な事で、教育時間も短いと言われている。だが空母を使った本格的な教育は現在Su-25UTG/UBPフローグフットを使用しているためそこでの教育時間が非常に長く、結局の所教育すべてが終了するまでに莫大な時間がかかってしまうのが現状である。そこで解決のためSu-27KUBフランカー(Su-33UB)が製造される事になった。Su-27KUBはSu-32のような並列複座コックピットに前輪車輪二重構造・強化型主降着装置が追加された以外はSu-27Kと全く同じで、空対空/空対艦戦闘能力もそのまま受け継いでいる。しかし財政上の問題で現在は思うように開発が進んでいない。

初の任務は1996年地中海での航海による防空任務で、その後1997年の北方艦隊の防空任務にも参加している。地中海での航海中Su-33はイスラエル防空識別権を度々侵犯し同空軍のF-16にスクランブルされていた。その際に「F-16に追尾されているのに、Su-33のパイロットは自機の翼端に並ばれるまで存在に気づかなかった」と言う一部のパイロットの話が、後々にはイスラエル空軍内全体に広まり話題となった。その後スホーイ設計局の会見で「警戒装置には重大な欠陥がある」と発表し、その話が作り話ではない事が判明した。原因はテールコーン縮小のため後方警戒装置を機内スペースを潰して奥に設置した事らしいが、改修され問題が解決されたかは不明である。

現在Su-33の部隊は大幅改変されマリャーヴィール第279艦載戦闘航空連隊の他に、ニヴェンスコイエ第689海軍戦闘航空連隊・リペツク第760教育研究戦闘機連隊が運用している。

(文責:重、)

性能諸元

名称 Su-33(Su-27K)
製造 スホーイ設計局
主任務 艦載要撃戦闘機
全長 21.18m
全幅 14.70m(折り畳み時7.40m)
全高 5.9m
主翼面積 67.8u
補助翼面積 --
フラップ面積 --
垂直尾翼面積 --
水平尾翼面積 --
乾燥重量 18,400kg
最大離陸重量 33,000kg
最大搭載量 6,500kg
燃料搭載量 9400kg
巡航速度 1,300km/h マッハ1.06
最高速度 2,300km/h マッハ2.165 (高度11,000m時)
実用上昇高度 17,000m
航続距離 3000km以上(高空) 1370km以上(低空)
戦闘半径 1220km以上(高高度) 420km以上(低高度)
エンジン Lyulka AL-31F×2:MIL74.53Kn以上 AB125.5Knターボファンエンジン
固定武装 GSh-301×1 最大150発
初飛行 1987年8月17日(T-10K-1)
乗員 1名(Su-33UBは2名)
生産数 18機(1994〜1996年部隊編成時)

固定兵装・ガン 空対空兵装 空対地兵装 アビオニクス類
GSh-301(9A-4071K)
30mm機関砲
AA-8(R-60) AS-17(Kh-31A/P) NIIP N-001
パルスドップラーレーダー
(RLPL-27 ASCC スロットバック2)
【探知距離240km・追随距離185km】
AA-10(R-27)
T/E/ET/EM/R/ER/EK
AS-20(Kh-35) OEPS-27 IRST 
【探知距離50〜70km】
AA-11(R-73A) Kh-41(3M80) SDU-27電子/遠隔操縦装置
※AA-12(R-77) ※AS-18(Kh-59M) L-006(SPO-15)ベリョーザ
パッシブレーダー警戒受信機
※AS-14(Kh-29L) パロールIFF装置
FAB-100通常爆弾 SO-69トランスポンダー
FAB-250通常爆弾 パラード対電子戦装置
FAB-500通常爆弾 APP-50チャフ/フレア
ディスペンサー
【カートリッジ24個以上】
BetAB-500
パラシュート&ブースター
制動通常爆弾
L-005ソルビツィS ECMポット
RBK-250/shOAB
対戦車集束爆弾
K-36MDシリーズ2射出座席
RBK-500AO/shOAB
対戦車集束爆弾
NSTs-27(NSc-27)
ヘルメット装着目標指示装置
ZAB-500ナパーム弾 SAU-27自動飛行制御装置
PB-250パラシュート制動型通常爆弾 PNK-27飛行/航法装置
KMG-2f/b
クラスター爆弾
S-27火器管制システム
ODAB-500PM
燃料気化爆弾
SRO-2オッドロッズIFFアンテナ
※KAB-500Kr/L
誘導爆弾
N012警戒レーダー
※KAB-1500Kr/L
TV誘導爆弾
UB-32-57(S-8)
ロケット弾
S-13F/Tロケット弾
S-25OF/OFMロケット弾

※これらの兵器は改修型のみ運用可能。

ステーションナンバー 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
AA-8(R-60)  
AA-10(R-27)        
AA-11(R-73)            
AA-12(R-77)    
AS-14(Kh-29)                
AS-17(Kh-31)                
AS-18(Kh-59M)                
AS-20(Kh-35)                
3M80(Kh-41)                      
FAB-100   ○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
 
FAB-250   ○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
○○
 
FAB-500     ○○ ○○ ○○ ○○    
KAB-500     ○○ ○○ ○○ ○○    
KAB-1500        
RBK-250     ○○ ○○ ○○ ○○    
RBK-500     ○○ ○○ ○○ ○○    
BetAB-500     ○○ ○○ ○○ ○○    
KMGU-2            
PB-250     ○○ ○○ ○○ ○○    
ODAB-500     ○○ ○○ ○○ ○○    
ZAB-500     ○○ ○○ ○○ ○○    
S-8           ○○     ○○    
S-13     ○○     ○○    
S-25     ○○     ○○    
L-005ソルビツィS ECMポット                    
ドロップタンク                            

※ステーション6・7番は、6番が中央上部7番が中央下部とする。
※爆弾・ロケット弾については1つのステーションでも複数搭載可能。

空対空兵装

ステーションナンバー          1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
ドロップタンク            
AA-10アラモ中射程空対空ミサイル(RH系)
AA-10アラモ中射程空対空ミサイル(IR系)    
AA-11アーチャー短射程空対空ミサイル  

空対艦兵装

ステーションナンバー          1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
Kh-41モスキート空対艦ミサイル             
AA-10アラモ中射程空対空ミサイル(RH系)      
AA-10アラモ中射程空対空ミサイル(IR系)    
AA-11アーチャー短射程空対空ミサイル      
L-005ソルビツィS ECMポット         

空対地兵装

ステーションナンバー          1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
FAB-500通常爆弾orKAB-500誘導爆弾      
AA-12アッダー中射程空対空ミサイル    
AA-11アーチャー短射程空対空ミサイル      
L-005ソルビツィS ECMポット         

派生型

●Su-33(Su-27K)

(PHOTO:SUKHOI)
Su-27の艦載戦闘機型、対艦攻撃能力が追加された以外能力的には殆ど変わらない。

●Su-33UB(Su-27KUB)

(PHOTO:SUKHOI)
Su-25UTGフローグフット艦載練習機の後継機、並列複座コックピット・強化型主降着装置以外Su-33と能力は変わらない。現在は財政上の理由で開発は余り進んでないと思われる。

●Su-33能力向上型(Su-27KMまたはT-10KM)

1999年にスホーイ設計局が開発したと言われる能力向上型、しかし現実存在するかは不明。不確定情報によるとコックピットやアビオニクス等全て改修され、AA-12・AS-14・AS-18・KAB-500・KAB-1500等の運用が可能だと言う。

●Su-33M

Su-33のレーダー・エンジン改修型、一説によれば設計段階で中止になっていると言う。

●Su-33MK

詳しい事は不明。

配備国

●ロシア
Su-33 24機以上
Su-33UB 2機以上(2004年現在 試作段階)

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