ランサー(MiG-21)
【Lancer - ランサー】
ランサーはMiG-21近代化改修型のひとつである。
1980年代後期に入ると50〜60年代に生産された純粋なMiG-21シリーズの機体寿命の限界がきていた。更に当時出てきたばかりのF-15・F-16・MiG-29・Su-27等新鋭機の性能と比べても雲泥の差があり、機体価格も高価になったため発展途上国では新鋭機の購入は金銭的は困難、そのため保有機体の近代化改修を希望する国が多く出てきた。その要望に答えイスラエルのIAI社(イスラエル・エアクラフト・インダストリーズ社)は1990年代初期にMiG-21-2000を開発した。これの改良型が後に「ランサー」の言われるようになる。本機はMiG-21の約90%を改修しており、外見は同じでも中身が全く違うので「全く別な機体」と思っても良い。
ルーマニアは1990年代に計画された「大規模改良プログラム」の一環としてMiG-21M/MF/UM/USを改修する事を決定し、試作用として同空軍所属のMiG-21MF(bisの説も有り)数機をIAI社に貸し出した。その後改修したMiG-21-2000仕様を本国へ持って帰り、戦闘機型(旧MiG-21MF/bis改修機)とMiG-21攻撃機型(旧MiG-21UM/US/MF改修機)との2タイプに分けルーマニア独自の改修を加えた。
改修機器の一部
- EL/M-2032多モードレーダー(ランサーC用)
- EL/M-2001B測距レーダー(ランサーA/B用)
- DASHヘルメット標準装置
- ライトニングLDP目標指示ポット
- EL/L-8222R 電子戦ポッド
- LISA-4000EBナビゲーション・システム
- Plessey敵味方識別装置(NATOのMk.10敵味方識別装置とリンクが出来る。)
- HOTAS管理システム
- SAIMSフライトレコーダ
- DTSデータ転送システム
- Function/Color多機能ディスプレイ
- Elop921ヘッドアップディスプレイ
- SPS-20レーダー警告受信機
- LM52-M2発射器
- ACR435/430 UHF/VHFラジオ
- TAAS/IMIチャフフレアディスペンサー等
これらは全てルーマニアの航空機メーカー「エアロスターズエンタープライズ社」とイスラエルの電子機器メーカー「エルビト社」の合同チームが製作したものである。なお面白いことに操縦桿は全く変わってなく原型のMiG-21と同じものを使用している。この機体は1994年ファーンボロで発表され、同時期にランサーとしてルーマニア空軍に正式採用が決定した。
ちなみにランサーとMiG-21-2000の違いはアビオニクス面で、先に話したように多く国産の機器を使用している(特にコックピットはディスプレイの位置の違い等で比べると良く分かる。)
◎(左)MiG-21bisフィッシュベットJ (中)MiG-21-2000フィッシュベット (右)MiG-21ランサーC.
ランサーの種類は対地攻撃型の「ランサー1(A)」・機種転換訓練型の「ランサー1(B)」・迎撃専用型の「ランサー2(C)」・輸出用の「ランサー3」の4種類が存在するが、細部の詳しい内容についてはよく分かっていない。アビオニクスに関しては現在の第一線機と同レベルの性能を有している。運用兵器に関しても純粋なMiG-21の兵装であるAA-2アトール・AA-8エイフィッド・通常爆弾・対地ロケット弾の他に、マジック2・パイソン3・AA-11アーチャー・オファーIR誘導爆弾等が新たに加わった。
このようにフルモデルチェンジされたランサーだが何故か墜落が多く(1994〜2002年までに約30機のランサーを含むMiG-21が墜落)、そのため1997年(1998年の説もあり)の実戦配備から数年で「ランサーを含むMiG-21系を全機退役させるべき」と言う意見がルーマニア空軍内で多く言われるようになった。
しかしルーマニア国防省は改修計画に3億5,000万ドルを支出していることを理由に退役を拒否する声明を2002年に出し、2007〜2010年までの運用を決定した。ちなみにルーマニア向けの全MiG-21ランサー改修は2002年に終了している(A型79機 B型10機 C型25機=合計114
機)。
丁度この時期同空軍のMiG-29A/UBフルクラムは全機退役している。
性能諸元
名称 |
ランサー2(C) |
製造 |
ミコヤングレビッチ設計局(MiG・原型)
IAI社・エルビト社・エアロスターズエンタープライズ社 |
主任務 |
迎撃戦闘機 |
全長 |
15.76m |
全幅 |
7.150m |
全高 |
4.12m |
主翼面積 |
23m^2 |
補助翼面積 |
-- |
フラップ面積 |
-- |
垂直尾翼面積 |
-- |
水平尾翼面積 |
-- |
乾燥重量 |
※5843kg |
最大離陸重量 |
※9800kg |
最大搭載量 |
2000kg |
機内燃料搭載量 |
※2200kg |
巡航速度 |
-- |
最高速度 |
※2175km/h マッハ2.05 |
実用上昇高度 |
19,000m |
航続距離 |
※1,240km(800?増槽付だと1,600km) |
戦闘半径 |
-- |
エンジン |
※ルーマニア製新型エンジン?:MIL4,070kg AB6,490kg |
固定武装 |
Gsh-23 通常200発(最大220発) |
初飛行 |
1994年以前 |
乗員 |
1 |
生産数 |
25機 |
※ 数値はMiG-21MFの数値,性能は同等がそれ以上だと思われる。余りにも情報が少ないため不明な部分が多い。
固定兵装・ガン |
空対空兵装 |
空対地兵装 |
アビオニクス類 |
Gsh-23
23mm 2砲身機関砲 |
AA-2(R-3) |
オファーIR誘導爆弾 |
EL/M-2032多モードレーダー(ランサーC用)
EL/M-2001B測距レーダー(ランサーA/B用)
DASHヘルメット標準装置
ライトニングLDP目標指示ポット
EL/L-8222R 電子戦ポッド
LISA-4000EBナビゲーション・システム
Plessey敵味方識別装置
(NATOのMk.10敵味方識別装置とリンクが出来る。)
HOTAS管理システム
SAIMSフライトレコーダ
DTSデータ転送システム
Function/Color多機能ディスプレイ
Elop921ヘッドアップディスプレイ
SPS-20レーダー警告受信機
LM52-M2発射器
ACR435/430 UHF/VHFラジオ
TAAS/IMIチャフフレアディスペンサー |
|
AA-8(R-60) |
OPHER-IR誘導爆弾 |
|
AA-11(R-73) |
Lizard-IR誘導爆弾 |
|
パイソン3 |
FAB-100通常爆弾 |
|
マジック2 |
FAB-250通常爆弾 |
|
中射程空対空ミサイル |
FAB-500通常爆弾 |
|
|
CL-250 |
|
|
BEM-100 |
|
|
Mk82通常爆弾 |
|
|
MK83通常爆弾 |
|
|
S-5爆風破片効果型
57mmロケット弾 |
|
|
S-8爆風破片効果/
コンクリート貫通型80mmロケット弾 |
|
|
S-24爆風破片効果型
240mmロケット弾 |
ステーションナンバー |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
AA-8 (R-60) |
○○ |
○ |
|
○ |
○○ |
AA-11(R-73) |
○ |
○ |
|
○ |
○ |
マジック2 |
○ |
○ |
|
○ |
○ |
パイソン3 |
○ |
○ |
|
○ |
○ |
MK82 |
○ |
○ |
|
○ |
|
MK83 |
|
○ |
|
○ |
|
FAB-100 |
○ |
○ |
|
○ |
○ |
FAB-250 |
|
○ |
|
○ |
|
OPHER |
|
○ |
|
○ |
|
Lizard |
|
○ |
|
○ |
|
S-5 |
○ |
○ |
|
○ |
○ |
S-8 |
○ |
○ |
|
○ |
○ |
S-24 |
|
○ |
|
○ |
|
800l増槽 |
○ |
|
○ |
|
○ |
派生型
●MiG-21-2000
ランサーの原型。
●ランサー1(A)
対地攻撃型、新型AAMや精密誘導兵器の搭載が可能となった。
●ランサー1(B)
機種転換訓練型、ランサーAの機種転換訓練機として使用され性能はランサーAと変わらない。
●ランサー2(C)
迎撃専用型、防空用の迎撃専用機として使用されロシア製AA-11アーチャーやイスラエル製パイソン3と言った短射程空対空ミサイルを搭載できる。更に一部では中射程空対空ミサイルも運用出来ると言う不確定情報もある。
●ランサー3
輸出型、エルビット社/アエロスター社が現在提案しているMiG-21bisの近代化改修型。クロアチアやウガンダが興味を示している。
配備国
●ルーマニア
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