IA58
【PUCARA - プカラ】

IA58プカラはアルゼンチンが開発した双発ターボプロップのCOIN機である。
本機の愛称であるプカラとはその昔、南アメリカ人が石で築いたアンデスの難攻不落の要塞から来ている。さらに蛇足ではあるが、プカラはアンデスの言語であるアイマラ語で「強きもの」と言う意味である。

COIN機とは、Counter Insurgency(対ゲリラ戦の意)の略で、軽攻撃機の一種である。
基本的に全天候能力やミサイルを装備しないCOIN機はその名が示すとおり、自由落下爆弾や無誘導ロケットおよびガンポッドを搭載して歩兵やゲリラ勢力の掃討などに使うのが本来任務である。だが、基本的に安価で、練度が低いパイロットでも運用する事が可能である事から、発展途上国などでは本格的な攻撃機の代用となっている場合も多い。ベトナム戦争では、OV-10ブロンコが前線航空統制、空挺部隊の輸送降下、観測任務に従事し、第3次中東戦争(6日間戦争)やコンゴ動乱ではCM-170マジステールが攻撃機として爆撃任務などにも用いられた。ちなみに第3次中東戦争ではMiG-21との空中戦も経験している。現在ではCOIN機は南米などで専ら反政府勢力や麻薬カルテルの掃討などに用いられている。
COIN機は練習機を母体としているケースが大多数であるが、本プカラは最初からCOIN機として開発された。
1960年代初め、先程の例に漏れずアルゼンチンを支配していた暫定軍事政権は反政府軍やゲリラに対抗するためにCOIN機の開発を決定した。そして1969年8月20日、最初の試作機AX-2が初飛行、量産型のIA58Aが1974年11月8日に初飛行した。

エンジンはチュルボメカ・アスタズーXVI Gターボプロップエンジンを二発搭載し、当然片方のエンジンが被弾するなど停止したとしても飛行可能である。機体は、下部の装甲板や防弾ガラス製の風防などにより可能な限り小銃弾に耐える設計にされている。さらに、野戦飛行場のような不整地滑走路からでも離着陸ができる強固なランディングギアを持ち、最低限の地上支援でも運用できる設計にされている。ちなみに本機はOV-1モホークやOV-10ブロンコ等の他の双発ターボプロップCOIN機と違いSTOL性(短距離離着陸)は持ち合わせては居らず、離陸では700〜1,400m、着陸では605mを必要とする。

プカラの武装は全て非誘導である。さらに全天候能力も無く目視が頼りであるため、操縦席には傾斜が設けられ視界が良い操縦席が設けられている。固定兵装は機首に20mm機関砲と7.62mm機銃であり、ハードポイントは主翼下に2つ胴体下に1つある。プカラは最大1,500kgまでの無誘導爆弾やロケット弾、偵察ポッド、増槽などの様々な兵装を搭載する事が可能である。

1976年にアルゼンチン空軍第3グルポ(航空団)にて運用が開始され、早速76年末に反政府軍の鎮圧に用いられている。
それから時が経ち暫定軍政権が民衆からの反発が強くなっていた1983年4月2日、アルゼンチン軍はロザリオ作戦を敢行、アルゼンチン東に位置するマルビナス諸島(フォークランド諸島)へ、アルゼンチン兵士が4000人上陸し、レックス・ハント総督とイギリス海兵隊員60名を捕虜にした。そしてアルゼンチンの暫定軍事政権はマルビナス諸島を24番目の州として宣言し、それに対しイギリスの「鉄の女」こと、マーガレット・サッチャー首相はマルビナス諸島に機動艦隊の派遣を決定した。それが一般に言うフォークランド・マルビナス紛争の幕開けだった。

プカラも攻撃機として第3グルポ所属の25機が派遣された。だが、明らかにプカラは正規軍相手には分が悪すぎた。いざ、上陸したイギリス軍に攻撃を加えようと出撃したプカラはシーハリアーSTOVL戦闘機やプローパイプやスティンガー、レイピアなどのSAM(地対空ミサイル)等を持ったイギリス軍を前に次々に撃墜されてしまった。
そして5月14日にはペブル島にシーキングヘリにて上陸した45人のSAS(英軍特殊部隊)隊員らが、ペブル島飛行場に駐機されていた全航空機のコックピットおよび飛行場施設に爆薬を仕掛け、爆破した。これにより、プカラ6機含む駐機されていた航空機は全機飛行不能になってしまった。
さらに3機のプカラがイギリス軍に鹵獲されるなど散々で、唯一20mm機関砲によってイギリス軍のAH-1ヘリコプターを撃墜した以外、目立った戦果を挙げないまま結局、フォークランド・マルビナス紛争に派遣されたアルゼンチン空軍第3グルポ所属のプカラ25機は全滅してしまった。

輸出は、ウルグアイ、コロンビア、スリランカに行われているが、いずれも少数に留まっている。
派生型にはHS804・20mm機関砲をDEEA30mm機関砲に強化したIA58B(初飛行1970年5月15日)さらにフォークランド紛争での戦訓を得て改良されたIA58Cがあるが、結局どちらも採用はされなかった。
そして、プカラの後継として製造元のFMA(アルゼンチン軍用機製造工廠)では独ドルニエ社の協力で開発したIA63パンパ・ジェット練習/軽攻撃機の出力強化版NB-G型を提案している。ちなみに現在、FMAは民営化されロッキード・マーティンが70%の株式を保有する民間企業LAASA(Lockheed Aircraft Argentina SA)へと名称を変更している。

性能諸元

名称 IA58プカラ
製造 アルゼンチン軍用機製造工廠(FMA) 現LAASA
主任務 COIN機(対ゲリラ戦および近接航空支援)
全長 14.5m
全幅 14.25m
全高 5.36m
主翼面積 30.3m^2
乾燥重量 4,037kg
標準離陸重量 5,300kg
最大離陸重量 6,800kg
離陸距離 700〜1,400m
着陸距離 605m
最大搭載量 1,500kg
燃料搭載量 782L
巡航速度 430km
最高速度 500km
実用上昇高度 9,700m
航続距離 3,040km(空輸時)
戦闘半径 900km
荷重制限 +6G/−3G
エンジン チュルボメカ・アスタズーXVIG
ターボプロップエンジン912HP×2
固定武装 20mm機関砲×2
7.62mm機銃×4
初飛行 1974年
乗員 2名
生産数 148機

固定兵装・ガン 空対地兵装
HS804 20mm機関砲×2 自由落下爆弾
ブローニング7.62mm機銃×4  70mmロケット
ナパーム弾

派生型

●AX-2

試作型。1機のみ生産された。量産型とはエンジンが異なりギャレットTPE331-U-303を搭載している。

●IA58A

プカラの量産型であり唯一、配備された型。

●IA58B

機首の20mm機関砲を30mm機関砲に強化した型。
採用されず。

●IA58C

操縦席周りの装甲の強化やIFF(敵味方識別装置)やHUD(ヘッド・アップ・ディスプレー)を装備し、単座に変更したアビオニクス強化型。Martin Pescador対戦車ミサイル(射程8km)やマジックII空対空ミサイルの運用が可能となっている。
アルゼンチン空軍では既存のIA58AをIA58Cに改修する計画が立てられたが、資金難で結局採用されなかった。

●IA66

エンジンをTEP331-11-601Wターボプロップエンジン 1024HPに換装した型。
研究のみ。

配備国

●アルゼンチン

IA58A 86機(保管のみの機体も複数あり)

●ウルグアイ

IA58A  6機

●コロンビア

IA58A  不明(現在は全て退役している)

●スリランカ

IA58A 4機(稼働状況にあるか不明)

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